短編 T
□希う─コイネガウ─
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「まだ墓穴を掘り続けているんですか?」
「……あいっかわらず容赦がないのう、柳生は」
苛々しとる俺にこれ程までに辛辣な言葉を向けてくるんは。
テニス部レギュラーの中でもそうはおらん。
幸村と。
今まさに俺の神経を逆なでした柳生くらい。
『希う─コイネガウ─』
電話をするのもメールをするのも。
休みの日に会いたいと伝えるのも。
全部、俺から。
だから──…
「携帯は眺めるものではなく、連絡を取るためのものですよ」
「そんなこと、分かっとうよ」
やれやれ、とでも言うように柳生はわざとらしく溜息を吐き出した。
馬鹿馬鹿しいことをやっとる自覚はある。
香乃が我儘を言わん女じゃということくらい、当然知っとる。
テニスを優先しても文句も言わん。
あの女と喋るな、こいつと喋るな、なんて口出しもせん。
部活がオフの日に会うことを強要もせんから、始めは楽な女じゃと思うとったのに。
いつの間にか、囚われていた。
この俺が。
たった一人の女に。
いつも不安げで自信なさげな、平凡な女に。