短編 T
□甘いココアとミルクティー
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『甘いココアとミルクティー』
「仁王ー、幼馴染ちゃんが来たぜぃ」
教室のドア付近から俺を呼ぶ丸井の声。
ちらりと視線を向ければ丸井の言う通り、俺の幼馴染がドアからひょっこり顔を出しとった。
幼馴染いうても香乃はまだ一年で。
三年の教室が並ぶこの階にいること事態、何やら居心地が悪そうじゃった。
香乃が立っとるドアに近づく俺の姿を確認した丸井が、「じゃあな」と一言告げ香乃の頭に一度ぽんと手を置いた。
小動物じみた可愛さのせいか、それとも常に眉が下がり気味の不安そうな顔をしとるせいか、香乃にやたらと保護欲を掻き立てられる輩が多い。
隙あらば香乃に近づこうとする野郎どもが多すぎる。
まあ、そんな輩は俺が一睨みすれば大概は逃げていくんじゃが。
厄介なんは丸井を含めたテニス部レギュラーの奴らかのう。
そんな事を考えながら、ドア付近で俺を待っとる香乃の側まで歩み寄り、そのまま香乃の背に腕を回して廊下へと出ていく。
流石にドアを塞いで話しこむわけにもいかん。
廊下から外へ繋がる窓がある壁を背に立つ香乃を、真正面から見下ろす位置に立った。
気温は低くなったが、窓から差し込む日差しは暖かい。
「香乃がここに来るとは珍しいのう。何ぞあったんか?」
猫背ぎみの背を更に丸め香乃に視線を合わせ問いかけると、香乃の大きな鳶色の目が俺を見上げた。
「まーくん、今日の部活、何時に終わるの?」
「部活? 六時には終わると思うが、それがどうかしたんか?」
「待ってても良い?」
珍しい、と思うた。
香乃は部活には入っとらんから六時まで学校に残る必要はないし、そんな時間まで一人でおったら暇じゃろう。
俺とどこか寄りたい所があるんかと思うたが、それなら平日じゃのうてもええはずじゃ。
そうなれば、残る理由は知れとった。