短編 T
□呼べない名前
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何かを忘れとるような。
そんな気がしたんじゃ。
『呼べない名前』
朝、起きて。
朝練までに間に合うように準備して。
学校へ行って。
授業受けたり、さぼったり。
いつも通り過ごしとるのに。
何かが足りんような気がしたんじゃ。
「何か忘れとらんか?」
同じクラスの丸井に、そう問うてみたんじゃ。
クラスメートの中でも丸井は部活も同じじゃから、他の奴よりは一緒におる時間が多いから。
何か気付いてくれるんじゃないかと、俺らしくもなく他力本願な考えじゃったが。
いくら考えても思い出せんのじゃ。
何か大事なもんを忘れた気がするのに。
その何かが、欠片も思い出せん。
俺の問いに、丸井も一応は考えてくれたみたいじゃったが。
俺と同じ。
いや、俺とは少し違うか。
何も引っ掛かりはないらしかった。
何か忘れた気がするんは、俺だけなんじゃろうか?
不意に、俺の斜め後ろに視線を向けた。
何故か、無性に気になったんじゃ。
そこに何か大切なもんがあったような。
「何じゃったかな……」
屋上や校舎裏、海風館に旧校舎。
何か思い出す切っ掛けになりそうな気がして、ぶらりぶらりと歩いてみたんじゃ。