短編 T
□甘いココアとミルクティー
2ページ/4ページ
「何ぞ居残らんとならん用事ができたんか?」
「うん、五時くらいまで掛かりそうだから……」
後の言葉を濁したが、遅うなるから一緒に帰ろうと言うことか。
確かに今の季節、夕方五時ともなれば薄暗くなりつつある時間帯じゃ。
それに授業が終わって直ぐの下校時間と最終下校時間なら帰る生徒もそれなりにおるが、中途半端な時間に帰ると人通りが少ない道が多い。
一人で帰らせて、何ぞあったら大変じゃ。
「なら一緒に帰ろうかの。部活終わったら迎えにいくけえ、教室で待っときんしゃい」
「ありがと、まーくん」
たったそれだけのお願いを聞いただけで、嬉しそうににこにこしとる香乃。
ほんに可愛いのうなんて思いながら頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めて香乃が笑うた。
「ああ、そうじゃ」
「?」
「校舎内いうても夕方は冷えるけえの、ちゃんと温かい格好しとかなならんぜよ?」
俺の言葉にこくこくと頷く香乃の頭を撫でしばらく話しこんだ後。
香乃が帰ったんで教室に戻ることにした。
「なー、仁王ー、香乃ちゃん俺にくれ」
「馴れ馴れしく『香乃ちゃん』とか呼ぶんじゃなか」
「じゃ、香乃を俺にくれ、仁王」
「香乃を呼び捨てにしてええんは、香乃の家族と俺だけじゃ。あと誰がお前なんぞに香乃をやるか」
何でか教室に戻った途端、丸井に絡まれた。
ただの幼馴染から彼氏に昇格しようと涙ぐましい努力しとる俺が、何で他の男に香乃を渡さなならんのじゃ。
部活が終わりシャワーを浴びて着替えとると、赤也が腹減ったと騒いどった。
ジャッカルと丸井が騒ぐ赤也と帰りにどこかに寄る相談をしとったんを聞き流しながらネクタイを締める。