夢声

□声を聞かせて(第四章)
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風が冷たく頬を撫でる


いつの間にか湖上にうつる
花火は終わりを告げていた


狛村の腕に背後から抱かれながら

二人とも

このまま時の流れが止まって
しまえばと考えていた


言葉を交わさずとも
伝わる温もり


鈴姫の首筋は闇夜に白く浮かび

狛村が強く抱きしめ過ぎたのか
襟元が乱れ…
首筋から流れる様な線が
鈴姫の胸の谷間をうつし

狛村の腕が力を入れる度に
震えるように揺れる

無言の時間が長すぎたか

鈴姫の媚薬のような
香りに
狛村の欲望が
ふつふつとわく

狛村は
心を必死に律しようと試みた

抗いようのない
押し寄せる波に

腕はそのまま鈴姫を
抱き
鈴姫の体から身をよじるように
少し距離をとる

狛村が距離を取った背中に
秋の冷たい風が入る

鈴姫は
チラリと
身じろいだ背後の狛村を
意識した

「ぬ、すまぬ」
沈黙が終わった

「わたくしこそ…

はしたない女と
思わないでください」

「…」

初めての逢瀬が終わってしまう

言葉を…
言葉を…

思っても中々言葉が出てこない

狛村は

グイッと力強く
もう一度鈴姫を抱く
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