ユヴォ連載駄文

□恋すると
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2話・礼服姿



朝早く起きて、式典の準備から始まった。

「ああ、陛下! 礼服姿は一段とお美しい……!」

「って、いつもと同じ格好のような気がするんですけど……」

「何をおっしゃいます! 素材も違いますし、染め上げも糸から施したものなのです。それを
当然のように着こなされるとは、さすが陛下でございます!」

「ギュンター、まだマントと王冠も残っている段階で汁になってどうするんだ」

そう言って、ギュンターの代わりに白い礼服姿のコンラッドがマントを着せてくれた。

これ、肩こるんだよなあ……。

でも、今日は国の重要な記念日の式典でみんな礼服だし、着ないわけにもいかない。

「ああ、錫杖が用意されていませんね。すぐ持って参りますが、先にこれを」

さらに頭の上に輝く王冠を載せられる。

重い……。

思わず頭が沈んだところで、部屋の扉が開いた。

「ユーリ! 背筋が丸まっているぞ! しゃんとしろ!」

ヴォルフラムの声に反射的に背を伸ばして、振り返って見る。

……え。

「そうだ。そうしていれば、へなちょこには見えないぞ」

金色に飾られた明るい青の礼服に純白のマントを重ねて、おれをまっすぐ見ている胸を張って
かすかに微笑んだ華奢な姿。

その柔らかいはちみつ色の髪も、澄んだ湖みたいなエメラルドグリーンの眼も、透けそうに
白い肌も、見慣れた色だ。

でも……。

「……ヴォルフ」

「なんだ、いつもみたいに『へなちょこ言うなー』と返さないのか? 緊張しているのか」

表情もいつもとそんなに変わらないような気がするけど……。

「……うん」

まるで息が止まってて、ぼんやりと返す。

こいつ……こんなに綺麗だったっけ……?

「ヴォルフラム、来るのが遅いぞ」

「だったら、ユーリを起こす時にぼくも起こしてくれればよかったんだ」

「起こしたさ」

「結局起きていなかったのだから、起こしたことにはならない」

コンラッドと話し始め、兄を見上げている横顔を見つめる。

ツンケンしててもすごく綺麗だ。

まるで違う世界にいるみたいに。

あの顔を見降ろしてるコンラッドには、どういうふうに見えているんだろう。

ちょっと替わってほしいかも、とか思ってたら、急にそのエメラルドの瞳がこっちを向いた。

「なんだ、ユーリ。ぼんやりして。そんなに緊張することはないぞ」

「えっ……うん」

確かにぼんやりしてるのかも知れない、知らない間にギュンターは部屋を出て行っている
ようだ。

このヴォルフラムを見ていると、まばたきするのも惜しい。

「ユーリ? 急に緊張してきたんですか?」

「あ……いや、大丈夫だよ」

落ちつけよ、おれ。

もともとヴォルフラムは綺麗じゃないか。

初めて会った時だって、すごい美少年だって、見蕩れたじゃないか。

でも、あの頃よりどんどん綺麗になっていって……いったいどこまで綺麗になっちゃうん
だろう。

視線が外せない。

めちゃくちゃガン見してるよな、おれ。

なんとかしないと。

「あ、ああ、おれ、寝室に腕時計忘れてきちゃったかもしんない。ヴォルフ、見てきて
くんないかな……」

「え? まあ、いいぞ。その恰好であまりうろうろするものじゃないからな。見てきてやる」

ヴォルフラムが部屋を出て行くと、やっとおれは自分がすごくドキドキしていることに
気付いた。

あいつがこれ以上綺麗になっちゃったら、おれの心臓絶対壊れるぞ。

「ユーリ? 腕時計は今着けてるんじゃないですか?」

コンラッドが訊いてきた。

「ああ……うん。そうなんだけど」

「どうしたんですか。ヴォルフラムが何か?」

「あああ、あのさ、コンラッド……」

「なんですか?」

こんなこと言うのはなんだけど、コンラッドしか言う相手がいない。

「あいつ……どんどん綺麗になっていってない? 魔族の成長期ってそういうものなのか?」

「え? まあ、確かにヴォルフは可愛いですが……」

「今以上綺麗になられたら、おれあいつの顔見れなくなっちゃうぞ」

「まあね、魔族でも人間でもどこの国でも、恋をすれば綺麗になるものじゃないですか?」

「え……こい?」

「そうです、恋ですよ。そういえばヴォルフはあなたに逢ってから随分と綺麗になったかも
しれませんね」

「ヴォルフがおれに、恋、してるの……?」

「それは、ご存知でしょう?」

それは……どうだろう。

恋してる相手の真横であんなに無防備に眠れるものだろうか。

恋してるからって、あんなに綺麗になったんじゃ、世の中美男美女だらけだぞ。

ギュンターが部屋に戻ってきて、おれにステッキを差し出した。

受け取ろうと手を出して、おれは自分の指先が震えてることに気が付いた。

しっかりとステッキを握って、指先の感覚を取り戻す。

「ユーリ! 時計、探したが見つからないぞ!」

ヴォルフラムが純白のマントを翻しながら戻ってきて、困った顔を見せた。

出来るだけ上の方からその顔を見たくて、できるところまで背中を伸ばした。

「ご、ごめん! ないと思ったけど、ここにあったんだ」

「あったならいいが……大丈夫か? ユーリ。それ程に緊張してるのか」

わずかに下から顔を覗きこまれた。

「あ……」

「大丈夫だぞ、ユーリ! ぼくがついててやる!」

突然、手を握られた。

心臓がひっくり返ったみたいに、ドクンと大きく音を立てた。

勝気におれをまっすぐ見つめてくるその綺麗な瞳が、やっぱりどうしようもなく可愛くて、
おれは少し顔が笑った。

「ありがと……ヴォルフラム」




『3話・表情』に続く
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