ユヴォ連載駄文

□365日
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2話目…平気じゃん





ヴォルフラムはもともと大きな眼をこれ以上ないくらい大きく見開いていた。

ヴォルフラムにちゅーした。

呆然としながらおれの考えてたことは。

今までおれ、もし男とキスとかしたら気持ち悪いんだとずっと思ってた。

でも全然そんなことなかった。唇、柔らかかった。頬だってすべすべで。

自分の唇が僅かな時間味わった感触を思い出して、今更ドキドキしはじめる。

おれはヴォルフラムの両頬に添えていた両手を離して、自分の唇を指でなぞった。

ヴォルフラムがふと我に返ったような顔になり、次にまたその顔を見事に真っ赤にさせた。

「ひ…」

「ひ??」

「人が見ているところでなにをするっ?!」

目の前ですごい音量で怒鳴られた。

思わず耳をふさいだおれに、今度はコンラッドの笑い声が聞こえた。

「はははは、陛下は接吻が挨拶と言う国でお生まれになりましたからね。まあ、無理もないでしょう」

「挨拶だと?! 接吻が? なんていうふしだらな!」

「生まれたのは確かだけど、その国にいたのは半年くらいでおれにそういう習慣はないよ」

「では何のつもりだ!」

「ごめん、悪かったよ…つい…」

「『つい』だと?! いいか、接吻というものは公衆の面前でするものではない!」

謝っているのに、一向に許してくれそうにないヴォルフラムにおれはむきになって言い返した。

「公衆の面前じゃなかったらしてもいいのか?!」

お互いに顔を真っ赤にさせながら、もう意味のない応酬だったとは思う。

「してもいいといったら本当にするのか、ユーリは?!」

おれは、さっきの唇の感触をリアルに思い出して黙り込んだ。

男なのに、気持ち悪くなかった。

気持ち悪くない? いいや、それどころか……気持ちよかった。

柔らかい、蕩けるような感触。駆けだす鼓動。

男なのに。……平気じゃん。

ヴォルフラムが席を立ったかと思うと、部屋を走って出て行った。

「ヴォルフラム?!」

おれの声が聞こえたかどうか。

「ああ…」

グウェンダルがため息をついた。

おれがぼんやり考え事をしてる間に、ヴォルフラムはおれの沈黙を『キスをしたくない』と
言っているのだと捉えたようだった。

おれは慌てて席を立った。

ギュンターがおれの顔を見た。

「陛下、どちらに」

「決まってるだろ、ヴォルフラムのいるところ」

コンラッドが言った。

「今日は天気がいいですから、温室なんかに行くかもしれませんね。あそこは人気もないから
考え事にはうってつけだ」

「サンキュ、コンラッド!」

おれはその部屋を後にして走りだした。







グウェンダルはティカップのお茶を飲み干すと言った。

「やたらと陛下の肩を持つな、コンラートは」

「そうですか? そんなことありませんよ。ヴォルフラムも可愛いですからね」

「どちらにも甘い顔をしているのか」

「ふたりとも、あの年頃は色恋が全てってところありますからね。応援したくなりますね」

肩をすくめるとグウェンダルは部屋を出て行き、コンラッドはギュンターに微笑みかけた。

ギュンターはテーブルに指で『の』の字を書いていた。

「…さすが落ち込み方にも年季が…」

「なんですって、コンラート!!」








温室にたどり着くと、そこに目映い蜂蜜色の髪を見つけておれは足を止めた。

温室の木漏れ日にきらきらと照らされて、花々に手を伸ばす姿に、邪魔するのが忍びなくてしばし
見守った。

「ユーリ…」

ヴォルフラムが、こんな声音が出せるのかってほど切ない声でおれの名を呼んだ。

その独り言を聞いて、おれは温室に足を踏み入れた。

「ヴォルフラム」

「! なんだ、ユーリ」

もう怒った顔でも切ない顔でも、赤面すらしていなくて普通の顔のヴォルフラムだった。

「…返事きかずに出てっちゃうんだもん、ヴォルフ」

「何の返事だ」

「ここならほかに人はいないけど…。だめかな」

ヴォルフラムがおれの方に一歩寄った。

「だめ、じゃない」

ヴォルフラムの伏せた瞳が壮絶に綺麗で胸が苦しくなってドクン、と言った。

途端に心臓が踊りはじめる。

おれは呼吸さえ震えそうで、落ち着こうとギュッと拳を握った。

拳を広げて手をヴォルフラムの腰と肩に添えると、ゆっくりと唇をつける。

多分おれがかすかに震えてるのはヴォルフラムにはばれてる。

突然、ヴォルフラムの腕がおれの首に絡んできた。

顔の角度を変えて、唇を食まれた。

胸がじわじわする。やばい。気持ちよすぎる。

どれぐらいそうしていたのかおれにはわからない。

そっと唇を離して、荒めの息をゆっくり吐きながら、ヴォルフラムの整いすぎている艶めいた顔を
見ていた。

しばらくの沈黙の後、ヴォルフラムは言った。

「どうしたんだ? ユーリ。いままでぼくのこと友達としてしか見なかったのに。『男同士じゃん』が
口癖だったのに、いきなりこんなこと。遊んでいるのか?」

ヴォルフラムに言われておれは茫然と呟いた。

「男同士…なのに…」

男だけど。気持ち悪くないどころか、すごく気持ちよくって。

ほら、男でも平気じゃん。

でも、それってどこまで平気なんだ?




待てよ。おれって、バイ・セクシュアルか?!
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