ユヴォ駄文(短編)

□初夢を見損ねた日
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初夢を見損ねた日








まいった。

決して口には出すまいが、正直に言えば眠すぎる。

そしてだるい。身体のあちこちが痛い。

別にただ眠いだるい痛いだけなら平気なのだが、それを自覚するたびに昨夜のことを
思い出してしまう。

結局ユーリは本当に朝までぼくを寝かせてくれなかった。

どれだけ声をあげてもまだ足りないと言わんばかりに責められた。

延々と続く快感に気がおかしくなるかと思った。

いや、おかしくなってしまったのかも知れない。

ただ思い出すだけでまた背筋が疼くのだから。

とても甘い時間ではあったが、ああいうのは休日の前夜に限ってほしいものだ。

おかげで来客に接している時ですらぼんやりとしてしまって、大丈夫かと訊ねられて
しまう始末だ。

やっと午後のお茶の時間だ。今日は時間が経つのが遅いな。

椅子に座ろうとしてまた背筋が痛む。

背中に触れられている時に思いっきり身体を反らせていたからだろう。

これでも鍛えているから、生半可なことでは身体なんて痛くならないのに、ユーリの
やつ……。

ぼくは背中が弱いらしく、ユーリはそれを知って行為の時には必ず触れてくる。

そうすると、全身頭の中から指の先まで痺れるようにユーリの手のひらの感触に支配されて
しまって抗うことなど全く考えられない。

昨夜はあまりにしつこくて涙まで出てきても、まだと愛撫を続けられて、最後には腕すら
上がらなかった。

新年早々、激しいにもほどがないか?

もちろん、求められるのは嬉しいのだが……。

「ヴォルフラム」

「えっ!?」

急に呼ばれて驚いて顔を上げると、コンラートがぼくの様子を覗き込んでいた。

考えていたことが知れるわけがないが、なんだか恥ずかしくなる。

「な、なんだ?」

「今日はよくぼんやりしているようだけど、大丈夫かい?」

「なんだ、そんなこと。なんともない!」

「声も掠れているが、風邪をひいたとかじゃないのかい?」

「な、なんともないと言っているだろう」

「大丈夫ならいいんだけど」

「大丈夫だ!」

とっくに目の前に出されていたらしい茶に手を伸ばして口に運ぶ。

ユーリが突然立ち上がった。

「ヴォルフラム」

「え?」

「ちょっと、来て」

ユーリに腕を取られて立ち上がると、隣の誰もいない部屋へ連れて行かれた。

「どうした、ユーリ」

「どうしたじゃないよ!」

なんだか怒った顔をしている。

ぼくは何かしたか?

「なんだ?」

「何みんなの前で色気振りまいてるんだよ!?」

「い、色気?」

「今日は朝から、見れば黙り込んで色っぽい顔してて! おれの前ならいいけど、他の
やつの目の前で見せる顔じゃねえだろ! 声だって掠れてて色っぽいし」

いや、声が掠れてるのはどう考えてもお前のせいじゃないか。

「ぼくはそんな顔をしていたか?」

「してた! もう今すぐ襲いたいくらいに!」

「わ、わざとではないぞ。考え事をしていたんだと思うが……」

「何考えたらあんな顔になるんだよ」

一体ぼくはどんな顔をしていたというのだ……?

「そ、それは…………」

「言えよ」

「……」

「言わないとここで今襲うぞ」

机の上に押し倒された。

覆いかぶさってくるユーリの上体を腕で力の限りに押し返すが、腕も今日は痛んでいて
なかなか力が入らない。

「嫌だ!」

「じゃあ言えよ!」

言おうとしながらまた思い出す。

思い出せば思い出すほど、散々乱れさせられたものだ。

「……その、昨夜のユーリとのことを思い出してしまって……」

「え?」

「昨夜から今朝にかけてお前としていたことを思い出していたと言っているんだ!」

ボッとユーリの顔が見事に朱く染まった。

「そ、そうなんだ……」

「それがどうした! 悪いか!」

「あ……よくはないけど、なんかごめん……」

そう謝りながら、ユーリはまだぼくの上から退かない。

「おい、離せ……」

「あ、あの……やっぱり、嫌かな……」

「何が?」

ユーリが黙ってその身体をぐっと押しつけてきた。

……腰に、固い感触。

「嫌だ!」

「朝からそんな顔されて、こっちも我慢してたのに、そんな可愛いこと言うんだもん……」

「なんだろうと嫌なものは嫌だ! まだ仕事は残っているんだぞ? 夜まで我慢しろ!」

「……夜になったら、思う存分させてくれる?」

「……」

「じゃなきゃ、ここで今……」

「わかった!! わかったから夜にしてくれ!」

「じゃあ、夜に」

頬にチュッと軽く口付けて、ユーリはやっとぼくの上から退いた。

ほっとして身体を起こすと、ユーリがなんだか嬉しげにぼそっと呟いた。

「してくれ、って言われちゃった」

そういう意味で言ったんじゃないぞ!

まさか今夜も寝かせてくれないってことはないだろうな。

いや、さすがにまさかな……。


END

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