ユヴォ駄文(短編)

□ホワイト・クリスマス・イブ
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ホワイト・クリスマス・イブ





「おつかれさまでございました、陛下」

また今年もやったクリスマスのイベントが終わって、身内だけの宴会。

随分酒も入ってごちそうに囲まれて、みんな楽しそうだ。

相変わらずトナカイ姿のギュンターがねぎらってくれる。

「今年もよい催しでございましたね、陛下」

「うん。みんなありがとう」

コンラッドも笑いながらポンと背中を叩いてくる。

「かっこよかったですよ、ユーリ」

「なんだよ、冷やかすなよコンラッド。ただ舞台の上で喋っただけだろ」

遠い場所でツェリ様とグウェンダルとシャンパンを飲んでいたヴォルフラムが声を上げた。

「そこぉ!! 必要以上にべたべたするなー! ユーリの浮気者ぉぉ!」

さっそく酔っぱらってないか、あいつ。

でも、まあ今日みたいな日は羽目をはずしてもいいか。

それにクリスマスってのは家族と過ごすもんだしな。

ああ、家族そろってないじゃん。

「コンラッド、おれ風呂でも入ってくる。ついてこなくていいから、あとはヴォルフラムの
お守りでもしてやってよ」

「え? しかし」

「おれは大丈夫だし。いいからいいから」

「はい。では」

ギュンターがニコニコしながら言ってきた。

「陛下っ。では私がお世話を!」

「あー、ギュンターはギーゼラさんに声かけて。ちゃんと楽しんでるか見張ってること」

「ええ? 陛下?」

「命令です」

「は、はいっ」

「ああ、ギュンターも楽しむこと。これも命令な」

コンラッドもギュンターもそれぞれの場所へ向かって行った。

さて。

おれはひとりで軽い足取りで風呂場へ向かって行って、いつもよりさらにのんびり湯に
浸かった。

おれはまた、向こうの世界で家族とクリスマスを過ごすんだしな。








あったまって寝室のベッドの上でストレッチをしていると、ドアがノックされた。

何だ、こんな早い時間に。クリスマス楽しんでない不届き者がまだいたのか?

「はーい。誰ぇ?」

「誰とは何らー! 婚約者に向かってー!」

ヴォルフラム?

何で入って来ずにノックなんてしてるんだ?

いつも我が物顔で入ってきてるのも忘れちゃうほど酔っぱらったのか?

「失礼しますよ」

ああ、ドアを叩いたのはコンラッドか。

ドアが開いて、ヴォルフラムの肩に手を回したコンラッドが入ってくる。

「コンラート! ぼくはひとりで歩けるろ! はにゃせ(離せ)!」

「はいはい」

そう言って笑いながらもコンラッドはヴォルフラムの肩を支えたままだ。

「ユーリ、あと頼みますよ」

「え?」

酔っぱらいヴォルフラムの面倒をおれに見ろって?

いや、見るのは全然構わないけど、お守りを頼むと言ったのにコンラッドがそんなことを
言ってくるなんて。

ベッドから降りてコンラッドを見上げて訊いた。

「どうしたんだ? まだ宴会、やってるだろ」

ヴォルフラムが訊きかえしてくる。

「ユーリこそどうしたんら。会場から姿を消してこんなところれ」

「おれは準備とかで疲れてるし早く寝ようかなあと」

「じゃあぼくも寝るろ」

「ヴォルフラム? そんなに酔っぱらってるのか?」

そういったおれに、コンラッドがヴォルフラムの背中を押して預けてきた。

「確かに酔っぱらってますけど、そこまで飲んじゃいませんよ」

ヴォルフラムを胸と両腕で受け取りながらまた訊く。

「じゃあどうしてこんな時間に?」

「なんら? ぼくが来ると何か不都合でもあるのかー?」

「ないよ、ヴォルフラム」

宥めるように、はちみつ色の金髪を撫でた。

「いやぁ、陛下についていなくていいのかとみんなに訊かれたので、クリスマスというのは
異世界では家族で過ごすものと捉えるひとが多いので、陛下が気を遣ってくれたのだろう
と話したんですが」

さすがにコンラッドはなんでもお見通しだな。

「だったら、ユーリとぼくは一緒に過ごさないといけないらないか」

ヴォルフラムが拗ねた顔で言った。

「こう言い張るので連れてきました」

「ヴォルフラム……コンラッド」

「いいかー? ぼくはユーリの伴侶となるんだぞ!? らったら、家族らないか!」

それにはちょっと早いような気もするけど。

でも、じんわりと胸が熱くなった。

「ご存じのとおり、言いだしたら聞かないもので。それにおれもこの意見には異存はない
ですし」

「そっか?」

「あなたが始めたクリスマスですよ。当の本人が一人で過ごしてどうします」

「そうらろ!」

「はははは……」

「ではユーリ、あとはヴォルフラムをお願いしてもいいですか?」

「……うん。ありがと、コンラッド」

「明日にはグレタが帰ってきますから、今晩は二人きりでごゆっくりどうぞ」

一言余計だ。

コンラッドが下がっていく。

「それでは。Merry Christmas!」

「メリークリスマス」

扉が閉まった。

「ヴォルフラム、大丈夫か? 水飲むか?」

ヴォルフラムをベッドに掛けさせながら、訊いた。

「飲むなら発砲葡萄酒がいい」

「あはは、そっか。持ってこようか?」

今日はあまりひとには持ってこさせずに、おれが動こう、と思う。

「もう止めとけって言わないんらな」

「まあ、今日だしね。酒ばっかじゃ身体に悪いし、何か食べるものと一緒に取ってくるよ」

「いや、いい」

「いいのか?」

「食べるならユーリを食べる……」

普段ではあまりしない色っぽい言い方で、ドキッとした。

その綺麗な顔が近付いてきて、柔らかく唇を食まれる。

「……ばーか。おれが先に食うよ」

おれの方から、唇を重ね直した。

「ユーリ」

「ん?」

「めりーくりすます」

その一生懸命な舌足らずの囁き声に、笑みがこぼれた。

「……メリークリスマス。ありがとう、ヴォルフラム」

外は相変わらず雪が降り積もっているけれど、なんだか暖かいクリスマスイブだ。

どこか遠くで誰かがはしゃいでる声が響いている。



END

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