ユヴォ駄文(短編)

□忘年会やろう・中編
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忘年会やろう・中編








村田の肩には金色のキラキラした衣装をまとった小さな人影もあった。

「眞王。あんたまで」

よく見ると金色の衣装はツタンカーメンだ。

王つながりなのか?

「せっかくの宴会だ、俺を仲間外れにしてはいかんぞ。しかしなぜ俺だとわかった?」

「なぜもなにも、そんな小さな姿はあんた以外にないぞ」

「うむ。眞王廟を出るとどうしてもこの姿しか取れないのだ」

陽気なサンタクロースが話しかけてくる。

「渋谷、帽子被りなよ。せっかくフォンヴォルテール卿が編んでくれたのにさ。君が
素性のわかる姿だと、みんな好きなこと思いっきり言えないだろ」

「被ってもおれだってばれると思うけど。これはお前に被せてやろうと思って持って
きたんだ!」

「どうして僕に?」

「なんでこの格好でこの帽子なのかおれの方が訊きたいわ!」

「だって可愛いじゃないかー。それとも全身クマハチの方がよかった?」

「もういい。美味いもん食って忘れる!」

そう言っておれはクマハチ帽子をかぶった。

きらびやかなイタリア・ルネッサンスの扮装にクマハチ帽子……。滑稽だろうな。

「似合うよー渋谷ぁ! ひゅーひゅー!」

村田の傍に立ってたトナカイが、おれの前に来た。

「大変お可愛らしいですっっ!!」

ガシッと抱きつかれた。

「うわあ! な、なにするんだよ!」

あわてて振りほどくが、トナカイはすがりついてくる。

「今日は無礼講だそうで、普段の私のこの思いのたけをぶつけさせていただきました
ぁぁっ!」

「あー、セクハラは駄目だよ、トナカイくん」

「てかギュンターだろう! 離れろって!」

「ああ、駄目です、ボーネンカーイは身分の詮索は禁物だそうじゃないですか」

「そんなもんはじめて聞いたぞ!」

「いや、そういうことになってるから。この宴会は。渋谷……じゃなかった、クマハチも
よろしくね」

「村田あああ!」

「なんのこと? 僕は可愛いサンタさんだよー?」

ギュントナカイを振り切って逃げようとすると、誰か大きな人にぶつかった。

「あっ、すみません……」

「いーえー。そんなにお急ぎになってどうしたの?」

ひらりとしたドレスを着て顔を覆う形のマスクを着けたその人の声はどこからどう聞いても
グリ江ちゃんだ。

「ああ、ちょっとね」

「聞いてくださいよー。うちの上司ったら、その上司の悪口を散々言うくせに」

グウェンダルの上司っておれか?

「な、なに?」

「結局あのひとのこと尊敬してるんですよねー。そうは見えないように装ってるけど」

「え」

「素直じゃないところが可愛いわよねん!」

「そ、そうか」

「ああ、どこかへ急いでるのをひきとめちゃったのかしら? ごめんなさい!」

「あっ、じゃあね!」

手を振って、室内に入ってきた。

あんな風にみんな普段なかなか言わないことを今日は言い合ってるのか。

ちょっと面白いかもしれない。

コンラッドとか……いや、やっぱりヴォルフラムが何を言ってるのか気になる。

帽子をしっかりかぶりなおし仮面がしっかりついてるか確認して、顔を上げて会場内を
見る。

周りの人たちが一瞬、おれに注目した気がした。

それも少しの間だけで、にぎやかな会場は変わりないようにきらめいている。

気のせいか。

おれはおれと変わりない身長の、ピンを背筋を伸ばした背中を探しはじめた。

「それではみなさんお集まりのようですので、舞踏曲をはじめます!」

賑やかな中に、さらに賑やかな音楽が流れる。

すると。

「踊っていただけますか?」

「一曲私とお願いします!」

「いえいえ、私と踊りましょう!」

何人ものひとに囲まれた。

「い、いえ。おれ踊れませんから!」

「そう言わずに」

「リードしますから!」

「いやほんとに踊れないし! ごめんなさい!」

人を押しのけて強行突破した。

「あっ! 陛……いえ! あの、踊っていただけませんか」

どこに行っても声を掛けられる。

「すみません、通して!」

あわてていつも王座があるところのカーテンの陰に隠れた。

なんだよ、やっぱりバレバレじゃないか。

どうしよう、出て行けないぞ。

そっとカーテンの陰から会場内を見た。

あ。

すぐ近くにヴォルフラムがいる。

向こう向いててワイン色の衣装を着て茶色の帽子をかぶっていて体型も髪の色もよくは
わからないけど、あの身長にあの背中の伸ばし方、あの気品のある仕草はヴォルフラムに
間違いない。

喋っている相手は誰だ?

……江戸時代の町人のような紺の男の和服を着て片腕抜いて出してて、どうやったのか
桜吹雪が肩から腕に張り付いてる……頭巾をしっかりかぶってて顔はわからないけど
あの身長に肩の筋肉はコンラッドか。

なんだよ、普段仲が悪そうにしてるくせに、結局いざとなると一緒にいるくらい仲が
いいのかよ。

あ、なんか女の人が話しかけてる。

なにかを断ったみたい、残念そうに離れていった。

今度は男の人が明らかにヴォルフラムに話しかけてきてる。

手を振ってる。断ったのか。

あれはダンスのお誘い?

……やっぱりモテるじゃねえか、ヴォルフラムのやつ。

なんだか腹が立ってきたぞ。

おれは意を決してカーテンの陰から出ると、二人に近付いた。




※後編へ続く

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