ユヴォ駄文(短編)

□Moon
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Moon



日が暮れるととても綺麗な月で、一人で見ているのが惜しくなったおれは
誰かに伝えようととりあえず人を探した。

中庭に設置してあるテーブルと椅子に人影があり、そこに見慣れた姿が
ちらっと見えた。

おれは早速そこまで行って、声をかけた。

「コンラッド、月だよ」

コンラッドが空を見上げて笑顔を見せる。

「ああ、そうですね、ユーリ」

その場所へ近づいていくと、他にも人がいた。

ヨザックがコンラッドの正面の椅子に掛けてグラスを持っている。

少し離れたところにヴォルフラムが腰までの塀に凭れて立ってこちらを振り
返っていて、どうやら庭の景色を眺めながらワインでも飲んでいたらしい、
手すりに瓶とグラスが置いてある。

「陛下もお飲みになりますかぁ?」

ヨザックが声をかけてくれた。

「おれは飲まないよ。みんなで飲んでたのか」

「月見酒ですよ」

「ヴォルフも、姿を見かけないと思ったらここにいたんだな」

声をかけると、ヴォルフラムの潤んだ瞳にギッと睨まれておれは怯んだ。

「な、何…ヴォルフ…」

「こんの、うわきものぉー!!」

ヴォルフラムは突然おれに掴みかかってきたが、酔っているらしく、そんなに
力は入っていなかった。

それより、顔が近い…。

「あの、ヴォルフラムさん…?おれ何かしたかな?」

おれの胸元を掴んだまま、ヴォルフラムはおれをまだ睨みつけてくる。

酒のせいか上気してピンクに染まった頬が可愛くて、迫力はあまりない。

「らにも、ぼくの目の前で他の男に愛を告白しらくても、いいらないかぁ〜!」

呂律は回っていないが、ヴォルフラムはおれを揺さぶることができるほど元気
だ。

「な、なに?いつおれがヴォルフの目の前で誰かに告白したって?!」

おれはヴォルフラムの両肩に両手を添えて押さえながら問いかけた。

「とぼけるらー!!」

「本当に覚えがないんだって!」

ヨザックがにこにことしながら茶化すような声を出した。

「陛下ぁ、あまり興奮させますと、酔いが余計に回っちまいますよぉ」

おれはコンラッドとヨザックに尋ねた。

「なあ、どれだけ飲んだんだよ、ヴォルフのやつ」

コンラッドは手にしていたグラスを置き、少し身を乗り出してヴォルフラムの
顔色を見ながら答えた。

「割と飲んでいましたけど、もともとヴォルフラムは酒に強いんですよ。俺より
強いくらいですからね」

「そう言われてもコンラッドがどれくらい酒に強いのかおれは知らないー」

ヨザックは月を見ながらグラスをあおると言った。

「でも、閣下の噂は本当だったんですねえ」

「ヴォルフの噂?」

「可愛い顔して酒豪で酒乱だってもっぱらの噂ですぜ」

「そういえば絡まれたことがないわけじゃないなあ…それにしてもいったいどれ
だけ飲んだんだ?」

「さあ…閣下も子どもじゃないので俺は見てませんでしたけど」

見た目は大人には見えないんだけどね。

「瓶二本ほど一人で空けてましたけど、それくらいで泥酔はしませんよ、
ヴォルフラムは。よほどショックなことでもあったんじゃないですか?」

「えー?そういわれても」

ヴォルフラムがまるでおれの首にかじりつくようにして掴みかかりなおしてきた。

「ユーリ!無視をするらー!この、う・わ・き・ものがぁぁぁっ!!」

言うに合わせてがくがくと揺さぶられて、おれは慌ててヴォルフラムを止めた。

「ヴォルフ!余計に酔いが回っちゃうって」

「ぼくは酔ってらーいっ」

「でも、そんなに動いてると酔うよ」

「だれのせいらっ!」

「で?おれが誰に告白したって?」

「さっき、してたらないか…!」

「いつ?」

「ユーリがここに来たとき」

「え?さっき?」

「らから、そういっているらろう?!認めたな?」

「認めてないって。誰に?」

「コンラートに」

「??? なんて言って?」

ヴォルフラムはうつむいた。

「ヴォルフ。おれ、本当に全然心当たりがないし、おれがコンラッドに告白する
理由もさっぱりないんだけど」

ヴォルフラムはうつむいたまま目線だけ上げ、ちらりとおれの目を見上げて言っ
た。

「『コンラッド、好きだよ』って言った…」

しばしおれは自分の言動を振り返って考えてみたが心当たりはなかった。

「言ってないよ」

「とぼける気か?!」

「だって、本当に言ってないし。なあ、コンラッド、おれそんなこと言ってない
よな?」

「はい。ヴォルフラム、そうユーリに言われて俺は何て返事をしたんだい?」

ヴォルフラムはおれの首元をさらに強く握りしめて返事をした。

「『ああ、そうですね、ユーリ』と」

く、苦しいんですけど、ヴォルフラムさん。

「ああ、月ですよ、それ」

「…月?」

ヨザックが月と言っておれはやっと意味が分かった。

「ヴォルフラム、それは『好きだよ』って言ったんじゃなくて『月だよ』って言っ
たんだよ」

「え?ええ?」

ヴォルフラムは顔を真っ赤にすると、おれを突き飛ばした。

ああ、ちょっと可愛かったのに。まあ、恥ずかしがってるのも可愛いか。

「まぎらわしいんら!」

「もう、おれがそんなこと言うわけないだろ?」

「…ろうだか、ユーリは尻軽だからら」

「あはは。ところで、おれ、そろそろ寝るけど、ヴォルフも来ない?」

「ふん。ぼくもちょうどそろそろ寝ようかと思っていたところら」

ヨザックとコンラッドにおやすみと言ってその場所を離れた。

涼やかに照らす銀色の光に目を上げ、おれたちを笑っているような三日月におれは
クスリと笑い返して、ヴォルフラムと一緒に室内に入った。


END

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