ユヴォルユで50のお題

□21 赤い糸
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21 赤い糸






赤い糸の伝説の話をしたら、ヴォルフラムは形のいい眉を顰めた。

「糸なんて頼りないもの、すぐ切れてしまいそうだが」

それもそうかもしんない。

だからといってこのロマンチックな伝説をないものにするのはもったいなくないか?

「でも、お前の小指から赤い糸がどこかにつながっているかもしれないんだぞ? 
ドキドキしないか?」

目の前の輝くばかりの姿をした元プリは青い軍服の胸を張ってきっぱりと答えた。

「しない」

「はあ……おれ、お前って結構ロマンチストだと思ってたのに」

ため息をつきながらおれが言うと、ヴォルフラムは小首をかしげた。

ちょっと(どころじゃなく)可愛い。

「ろまん……? なんだ、それは?」

頭の中をひっくり返してヴォルフラムにもわかるような言葉を探した。

「えっと、夢想家、かな……?」

「なんだとぉ?」

「うわ、悪い意味じゃなくてさあ。なんかこう、この話聞いたらもっとノリノリで……」

「ノリノリで?」

「うーんと……、ぼくの小指の赤い糸はお前につながっているのだな! とか言いだすのかと
思ってたのに……」

おれが恥ずかしさをエイッとその辺に全て捨てて、思い切って言葉を吐き出すと、ヴォルフラムは
ぽかん、とした顔をした。

「……ユーリ」

「えっ!?」

がばっと抱きつかれて、おれはあたふたとする。

「ユーリ! ユーリ!」

「な、なんだよ、ヴォルフ」

「ではきっとぼくの赤い糸はお前につながっているのだろう」

「なんなんだ、突然! さっきと言ってること違うじゃねーか!」

「この国の王が決めたことなのだから、もうそのように決まったんだ!」

「絶対政治じゃないんだから。っていうか、おれ決めてねえし」

ヴォルフラムは腕を緩めて体の間に隙間を作ると、おれの顔を見つめた。

「……違うのか」

う、透き通るエメラルドグリーンの瞳に吸い込まれそうだ。

そんな顔で見つめられて、否と言えるようならそれはおれではない。

「違わない。やっぱり決めた」

「では、やはりぼくはユーリの運命の相手なのだな!」

また抱きついてきて、ヴォルフラムは嬉しそうな声を出した。

ちょ、ちょっと! 嬉しそうな顔するなら見えるところでやってくれよ! もったいない!

「……しかし、やはり、糸ではすぐ切れてしまいそうな気がするのだが」

ふりだしにもどった。

「しかも、コンラッドあたりが楽しそうにぶった切りにやってきそうな気がするなー、
おれ……」

「コンラートが? なぜだ?」

「……(ブラコンだから)」

「あ、おれが魔力でコーティングしておけばいいんじゃないか」

「ぼくは切れても結び直しに行くぞ、何度でも! ちゃんと堅結びで結ぶからな」

「異世界でも?」

「どこへなりとも!」

おれはまだ抱きついているヴォルフラムの背中にそっと腕を回した。

暖かくて、ドキドキしながらもどこかほっとする。

ヴォルフラムは、自分の右手をじっと眺めながら、言った。

「しかし、糸なんてついてないが……」

伝説だし、と言う言葉を飲み込んで、少しだけ身を離して笑いかけた。

おれにつられたその綺麗な笑顔にそっと唇を寄せた。


END

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