ユヴォルユで50のお題

□20 同じだね
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20 同じだね








そっとヘルスメーターに乗った。

デジタル表示が止まる。

なぜかその場に居合わせたおふくろが感心したように言った。

「あらぁ、体重まで同じなのね、ゆーちゃんとヴォルちゃん」

パジャマ姿のヴォルフラムが言う。

「ユーリの方が軽そうに見えるが」

おれは反論した。

「ヴォルフラムの方が絶対軽いって!」

「同じくらいに見えるわよ。ゆーちゃんの方が肩と腰回りがしっかりしてるけど。やっぱり
野球やってるせいかしら……」

「ぼくは鍛えているのだし。腕だってぼくの方ががっちりしている」

「がっちりってどこの腕持ってきてそう言えるんだよ!? おれだって鍛えてます!」

「ユーリは全体的に細い」

「肌の色のせいでそう見えるだけなんじゃないかしら」

「このヘルスメーター、誰が乗ってもこの重さなんじゃないのか!?」

「さっきママが乗ったら違ったわよ」

「おふくろが乗る時だけ正直だとか」

「なんか言った? ゆーちゃん」

「そういうのなら、今俺が乗って見せよう」

勝利がどこからか湧いて出てきた。

「勝利」

「有利、ちょっと上着持ってろ」

「ぶっ」

勝利に投げ渡されたシャツが顔に当たった。

怒る間もなく、勝利はヘルスメーターに乗っている。

おれたちよりはるかに重い。

「……」

「どうだ。ふざけた壊れ方はしていないようだが」

「では、次は俺が乗ろうか?」

コンラッドまで出てきた。

「いいよ、もう」

「きゃあ、名付け親さんはどれくらいの体重なのかしら。たくましそうよね。乗ってみて、
乗ってみて」

おふくろだけが喜んで、コンラッドもヘルスメーターに乗った。

勝利が言った。

「体重というのは朝食前に測るといいんだぞ。食事に左右されない値が出るからな」

「よし、朝また測るぞ。ヴォルフラム」

「またか?」

「よりにもよってお前に細いと言われておとなしく引き下がれるか!」

コンラッドが訊いた。

「で、何か軽い方には罰ゲームでもあるんですか?」

勝利が楽しそうに言った。

「軽いほうがお姫様抱っこされるってのはどうだ、あははは!」

「……」

「あれ? 有利、負けるかもしれないからそんな約束はできないか? ん?」

「そ、そんなことないよ! ヴォルフラム、軽いほうがお姫様抱っこされる方な!」

「ふ、ふん、ぼくは構わないぞ。ユーリに負けるわけがないからな!」

「デジカメの充電をしておかなくては」

「そうよね、しょーちゃん。ビデオカメラ充電しなくちゃ」

お姫様抱っこの上に撮影会かよ!?

「それにしても体重が重いほうがいいなんて、羨ましいわぁ……」

そんなおふくろの言葉を後ろに、そこを後にして、キッチンに行って牛乳を飲んだ。







翌朝。

カーテンを開けると眩しい朝日が飛び込んでくる。

こうしてやらないと寝たがりヴォルフラムはなかなか起きられない。

見ると、それでも眠るヴォルフラムの蜂蜜色の髪が朝日にきらきら輝いていた。

そこに思わず手を伸ばす。

ふわりとしていながらもさらさらとした手触りの金糸は、梳くとさらにきらめいて、目に眩しい
ほどだ。

いつまでも触れていたい気分にさせる。

しかし、今日ばかりはいつまでも寝かせておくわけにもいかないだろう。

そうしていれば、そのうちコンラッドあたりが起こしに来るだろうし。

「ヴォルフラム、ヴォルフラム」

肩をゆする。

……やっぱりこいつのが細いって。この肩とかさ?

「ん……ユーリぃ」

「おはよう、起きて」

「んん……?」

「体重測るんだから」

「ユーリはいつも早すぎるんだ……」

文句を言いながらもヴォルフラムは体を起こした。

さっそく、ヘルスメーターがある脱衣所まで連れて行く。

暇なのかなんなのか、おふくろも勝利もコンラッドも、親父までそこで待っていた。

「みんなでお出迎えかよ」

おふくろはすっかりビデオカメラをスタンバイ済みだ。

「顔洗うのも待ってはくれないわけね……」

「ああ、先に洗っていいわよ! そうよね、ビデオにも写真にも残るんですもの!」

ふたりで顔を洗い、そしてヘルスメーターに向かう。

先にヴォルフラムが乗った。

「昨夜より減っているではないか!」

「そういうもんだよ、ヴォルフラム。寝ている間は何も飲み食いしてないんだから」

「ユーリは!?」

ヴォルフラムと交代する。

みんなが息を飲んでデジタル表示を見つめた。

「……あら、やっぱりヴォルちゃんと一緒じゃないの」

「どこまでも仲がいいですね」

「では、カメラもビデオも用意したのに、お姫様抱っこはどうなるんだ」

「あら、交代で両方やったらいいじゃない」

「両方ぅー!??」

「よし、ユーリ、おとなしくしてろよ」

ヴォルフラムの声が耳元でしたと思ったら、ふわっと身体が持ち上げられた。

「おお、のりがいいね、ヴォルフラムくん」

お姫様抱っこで持ち上げられたおれの顔の目の前に、ヴォルフラムの顔があった。

お、お姫様抱っこって、こんなに顔が近いものだったんだな。

「む、無理するなよ、ヴォルフラム。重いだろ」

「別に、重くはないぞ」

「だって、お前、顔赤いぞ? 力んでるからじゃないか?」

みんなが少し笑った。

なんか変なこと、おれ言ったかな?

「そ、そんなことない!」

そう言いながら、ヴォルフラムはおれをストン、と下ろした。

「あー……写真2枚しか撮ってなかったのに、もう下ろしちゃったのか」

「ユーリの番ですよ」

「あー、はい」

ヴォルフラムの背中に腕を回して胴を引き寄せ、膝裏にもう片方の腕を持っていって掬うように
して持ち上げた。

身体の幅は思うよりも細かったのに、意外と重かった。

人間って結構重いものなんだ。

おれの腕が短くて不安定なせいか、ヴォルフラムはその腕をおれの首に回してくる。

やっぱり、ヴォルフラムの顔が間近にあって、そっちを見たら澄んだエメラルドグリーンの瞳と
目が合った。

ヴォルフラムがさらにカッと顔を赤くした。

なんだか見てはいけないような、それに恥ずかしい気がして、慌てて目を逸らす。

「お、重くないか、ユーリ」

「へ、平気。うん、平気だよ。これくらい軽いもんだ」

「なんだと!?」

「お、怒るなよ」

視界に金色の髪が入ってきて、間近にあのとんでもなく綺麗な顔があるのかと思うと落ち着かない。

「あの……そろそろ下ろしてもいいかな」

勝利がカメラで写真を撮りながら笑った。

「なんだ、有利。これくらいで根を上げるなんて男子として情けないぞ」

「別に重くて根を上げてるわけじゃないよ」

「どうだかな。本当にそうだというのなら、そのまま走るくらいの根性を見せろ」

「できるかあ!」

「やっぱりできないんじゃないか」

「いや、物理的にはできなくはないけど、その、どこを走るとかの問題が……」

「でも弟を落とされるといやなので、そろそろ終わりにしますか?」

「落とさないよ!」

こんな時ばかりコンラッドは弟とか言って!

「じゃあ、まだがんばるのね、ゆーちゃん。さすが男の子ね〜」

あれ? なにがどうなってそんな話になった?

ヴォルフラム! お前もそろそろ飽きてきただろ!?

飛び降りるとかしないのか?

ふと、顔を見ると、おれの肩に頭を預けてすっかりおとなしい表情をしていた。

か、可愛いじゃないか。

少しの間見惚れてしまった。

デジカメのシャッター音で我に返る。

「いいかげん、写真とビデオ、終われよな」

「いいじゃないー。最近しょーちゃんもゆーちゃんも大きくなっちゃって撮る機会も減っ
ちゃったんだから、こんな時くらい」

「勝利、俺の分プリントしてください」

「ああ、向こうはパソコンなくって不便だな」

コンラッド……ギュンターには見せるなよ……。

ヴォルフラムがおれに抱えられたまま眠りそうになったので、やっとおれはお姫様抱っこを
終わることになった。

ちょっと、筋肉痛になりそうかも……。










勝利がプリントした写真をくれた。

こうしてよく見ると確かにおれたちは同じくらいの体格だ。

眺めながら、おれはヴォルフラムの顔に見惚れている自分の写った写真をよけて、机の引き出しに
しまった。

この写真は半分何とかして向こうに持っていってグレタにでも見せてやるか。

グレタはおれたちが仲がいいと喜ぶからな。

ヴォルフラムがおれの首に腕を回し、おれがその体を抱き上げている様子はいかにも仲がよさそうだ。

おれの肩に頭を預けて寝そうになっているヴォルフラムの表情もよく撮れている。

しかし、体重比べがどうしてこうなったんだろう……。



END

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