ユヴォルユで50のお題

□17 ホワイトデー?
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*ユヴォル前提リバです。







17 ホワイトデー?







「ユーリ!」

いつもの聞きなれたアルトに声をかけられ、おれは振り返って金色の主を見た。

すると珍しく、ヴォルフラムが満面の笑みで、しかもそれが何かを含んでいる
様子なのでおれはちょっとひいた。

「な、何?ヴォルフ」

「聞けば、バレンタインデーの一か月後はホワイトデーと言うものだそうじゃないか」

「う、うん。そうだね」

「なんでも、バレンタインデーのお返しをいただけるとか?」

おれはバレンタインデーにヴォルフラムから何をもらったか思い出してヒヤッとした。

「う…うん。そうだよ」

まずい。これは多分まずい話題になる。

ヴォルフラムは、おれの顔を覗き込んできた。

「どうした?ユーリ、元気がないじゃないか?」

おれは愛想笑いを返す。

「そ、そんなことはないよ」

「そうか、安心した。これで心置きなくぼくもお前からバレンタインデーのお返しを
もらうことができるな!」

「心置きなく…」

「そう。お前がバレンタインの時にぼくにしたように、お前が嫌だと泣くまでお前の
体中隅々までぼくの好き勝手に――」

おれは慌ててヴォルフラムの口を手で塞いだ。

「うわ―――っ!!ヴォルフ!!ここ人通るから!こんなところでそんなこと口走ら
ないでよ!」

ヴォルフラムはすぐおれの手から逃れた。

「とにかく、お返しはきっちりもらうからなっ!楽しみにしているぞ」

ほ、本気ですか、ヴォルフラムさん…。

おれなんか泣かせて何か楽しいんですか…?








とはいえ、ヴォルフラムがおれを好き勝手に弄びたがってるとは、にわかに信じら
れなくて、あれは冗談だったのかなと日が経つと思えてきた。

おれがヴォルフラムのような可愛い声の美少年だったならば話は別だが、『双黒』
とはいえ、どこにでも転がっているような野球小僧だ。

バレンタインデーの日にはおれもちょっといじめすぎた。

それが悔しかったゆえの冗談だったに決まっている。

とかなんとか思っていたら、当日の夕方。

「ちわー。出張ラッピング屋でーす」

「村田?ここ血盟城だぞ?どうしたんだ、こんな時間に」

何やら布らしきものを腕一杯に抱えて村田がやってきた。

「なんだよ、渋谷。のんびりしてるんじゃないよ。さっさとしないとホワイトデー
終わっちゃうだろ」

「え?」

「さっさと脱いで!」

「ぬ、脱ぐ?!」

おれは村田に服を剥かれて、マントだかバスローブだか判別のつかない柔らかい黒い布
を着せられた。

その下は紐パン一枚だ。

「フォンビーレフェルト卿のリクエストで黒って言われた時は、えー?って思ったけど、
こうしてみると黒ってエロいねぇ」

「なんだよー、これぇ?!」

「衣装。似合うよん、渋谷」

「衣装って何の?!」

「嫌だなあ、『夜の衣装』に決まってるじゃない。脱がせやすいでしょ?あ、ネグリジェ
とかの方がよかった?」

更に村田はおれの頭にリボンを結んだ、いや、結びやがった!

ちくしょう、あとでほどいてやる!

そう思っていたら、なんと両手首を合わせて柔らかい紐で結ばれてしまった!

「さて、完成」

「お前!バレンタインの時はヴォルフは軍服着てたぞ?!おれがどれだけ脱がすのに苦労
したことか!」

「だって、あのときはまさかそういう流れになるとは思わなかったんだ。渋谷ったらオトナ
なんだからー」

「うう…」

「今回はホワイトデーっていうのがあるってフォンビーレフェルト卿にちらっと話したら、
じゃあ同じお返しがもらえるのかって彼が呟くからさ」

周りを片付けながら村田は続ける。

「話を根掘り葉掘り聞いて、どんなのがいいか聞いて用意してあげたってわけ」

「暇人だな、お前」

「誰かさんのおかげで平和になってきたからね。軍師は暇だよー」

「ところでこの手を結んでる紐は何」

「だって、こうでもしないと渋谷、立場ひっくり返そうとするだろ?」

こうされてもひっくり返そうと思ってますけど。

「ふうん…」

まあ、これは村田にほどいてもらうより、ヴォルフラムに頼んでほどいてもらう方が楽だろう。

「じゃあ、仕上げに僕はフォンビーレフェルト卿を呼んできてあげる。寝室でいいのかな」

「…まじかよ」

「あれ、まだ覚悟ついてなかったの。結構日数あっただろ」

「…まさかなーと思ってたんだ。でも今覚悟した。寝室でいい」

「明日無事だといいね、渋谷」

「祈っとけ」

村田は部屋を出て行った。








部屋のドアが開いて、ヴォルフラムが入ってきた。

カシャン、と部屋の鍵を閉める音がした。

「ユーリ」

ヴォルフラムが目を見開いておれを見た。

「ヴォルフ」

「ユーリ、可愛い」

もうおれは言い返すのも今更な気がしてそのことには触れないでおいた。

「ヴォルフ、バレンタインの時はありがとう」

ヴォルフラムはおれをベッドに座らせた。

灯りがついたままだ。

ヴォルフラムの右手の指がおれの顎に伸びて、顔を灯りがよく当たる方にくい、と
向かせられた。

暫くじっと顔を見つめられて、おれはなんだか恥ずかしくなる。

「なんだよ…」

「いいじゃないか。これだけ綺麗な顔なのに…婚約者なのに、あまり近くでゆっくり
見られる機会はないんだ」

「じゃあ、せめて灯りを消してくれ」

「灯りを消したら見えなくなるじゃないか」

「…消さないつもりか?!」

ヴォルフラムはニッコリ笑った。

くそ、こんな時ばかり笑顔を振りまきやがって。

「じゃ、じゃあ、この手、ほどいてくれ!」

ヴォルフラムはおれの耳元で囁いた。

「だめだ」

「…!」

「!そうか、ユーリ、耳が弱いみたいだな」

おれは後ろにざざざと後ずさった。

「そう警戒しなくても大丈夫だ。そこは最後のお楽しみに取っておくから」

なんですと?!

それにしても…ヴォルフラムがやたらと生き生きしている。

そんなに普段受け身と言うのは物足りないのか?!

ヴォルフラムがふと考える顔になった。

「…この次どうしようか」

そう言いながら、おれが纏っている服の前合わせを閉じている紐をしゅる、とほどいた。

「うわっ」

「なんて声を出すんだ、色気がないな」

「あってたまるかー」

ヴォルフラムはおれの正面の肌をさらすとそこに手を伸ばした。

ヴォルフラムの手はひんやりとしていて、おれはびく、と身を震わせてしまった。

ヴォルフラムはそんなおれを見て暫し目を見開き、そして目を伏せた。

「ユーリの肌はやはり綺麗だな。肌理が違う」

おれの手は結ばれたままで、そこに服が縺れていて、ヴォルフラムもおれに触れるのが
やりにくそうだ。

「なあ、これ、邪魔だろ?ほどいてくれよ」

「ふうん?上手に『お願い』できたら、ほどいてやるぞ」

「えっ?上手ってどういうの?!」

「自分で考えるんだな」

そう言うと、ヴォルフラムはおれの唇にキスしてきた。

ヴォルフラムの方からキスしてくれることは少ない。

おれはドキッとした。

そのまま、目を閉じていると、舌が入ってきた。

いよいよ、ドキドキが止まらなくて、少し息苦しい。

長いキスが終わると、おれはすっかり息が上がっていた。

それどころか、涙目にまでなっていた。

おれはそれでも構わずヴォルフラムを見上げる。

ヴォルフラムは虚を突かれた、といった様子で絶句した。

「…ヴォルフ?」

ヴォルフラムは顔を赤くして逸らした。

「どうした?」

おれはヴォルフラムの左腕を、拘束されたままの手で掴んだ。

ヴォルフラムは気付いたようにおれの手元を見た。

「あ、ユーリ…」

「ん?」

「もう、手を…ほどいてやろう」

「え、でも。これ、ほどいたらおれ、お前を押し倒しちゃうけどいいのか?」

冗談ぽく言ってみた。

「好きにしろ」

ヴォルフラムはおれの手首を結んでいた紐をほどいてしまった。

「だ、だって、ヴォルフ。バレンタインの仕返しするんじゃなかったのか?」

ヴォルフラムの顔を見ながら、おれは手首を痛めなかったか回してみて確認する。

「誰が仕返しだと言った?!」

「あ、お返しか。似たようなものじゃん、おれ、やりすぎたしさ…」

「もう十分もらったからいい」

「何かあげた?おれ…」

「ユーリにはわからないだろうな」

「…ヴォルフさあ、本当はやりたい方なんじゃないの?」

「さあ…どうしてだ?」

「だって、楽しそうだったよ」

「そこまでいうのならお言葉に甘えていただくが?」

「いや、勧めてないから!」

おれは慌ててヴォルフラムを組み敷いた。

ヴォルフラムが笑いながら言った。

「耳もまだ攻略してなかったしな」

ヴォルフラムがおれの耳元を指でするっと撫でた。

「うわ!」

「……なんだその反応は」

一息ついてから今日おれがヴォルフラムにあげたものってなんだったのか訊いてみよう
と思いながら、ヴォルフラムの伸びてくる手と格闘しながらその肌に唇をつけた。

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