ユヴォルユで50のお題

□15 喧嘩
1ページ/1ページ

15 喧嘩







「お帰りなさいませ、陛下」

「ただいま。みんな、元気だった?」

一言目からこれだ。

ギュンターに着替えを、コンラートにタオルを渡され、ユーリは乾いた黒い衣装に
着替えた。

ちょうど時間が時間だったので執務室に入る前にみんなでお茶にすることにする。

侍女がお茶を運んできた。

「ありがとう」

ユーリは笑顔で礼を言った。

侍女は頬を赤らめて下がって行った。

全くいつもいつもユーリのこれは、八方美人を通り越していないか?!

ぼくのイライラは頂点に達した。

「この浮気者!ユーリの尻軽!」

ユーリが口を付けようとしたティカップを皿に戻した。

「へっ?!」

他のみんなは黙ってぼくらを見ている。

「自分が容姿端麗だからって、そうやって手あたり次第声をかけてそんなに面白いか?!」

「ヴォルフ、も、もしかしてそれは、おれのことか?!」

「当たり前だ!容姿端麗と言ったらお前に決まっているだろう!」

ぼくはユーリに言い募るがコンラートもギュンターも止める気配はない。

「え?…いや、手あたり次第って、そんなことしてないよ…」

「してたではないか!久しぶりに会って一言目に『みんな』だったし、さっきも侍女に声を
かけていた!」

「そうだったっけ…?え??」

「侍女はすっかりお前にのぼせ上った様子だったぞ!」

「し、知らないよ、おれ…!本当に知らない!」

「お前の器量では、笑顔ひとつで相当な武器になるんだ!向けられたものは夢見心地になる
ほどだ!」

「またそんな、そんなわけないじゃないか…」

「自分が可愛くて綺麗なのをいいことに周りの者をたぶらかそうとは!貞節という言葉の意味を
知れ!」

「誰が可愛くて綺麗なんだよ…?」

「お前に決まっているではないか!!」

こともあろうに、ぼくは涙声になってきた。

それでも、ぼくはユーリのとぼけた質問に答えてやった。

「ヴォルフ…」

ユーリは茫然とぼくの顔を見ていた。

涙のたまったぼくの顔はそんなに見苦しいだろうか。

「ユーリのように見目麗しい者を婚約者に持つぼくの気持ちなどわかるまい!」

それだけ一気に言うとぼくはその部屋から走り出た。








「なんか…ヴォルフラムは陛下に食って掛かるように見せかけて…」

ギュンターはそう言いかけてお茶を口に運んだ。

続きをコンラートが楽しそうに言った。

「なんだかべた褒めでしたね、ユーリ」

ユーリはお茶を一気に飲み干すと、席を立った。

「どうされました?」

「泣いてたから追いかける」

「執務があるのをお忘れなく」

「うん、できるだけ早く戻る。たださ、泣くならおれの胸で泣いてほしいだけだよ」

宝石が零れ落ちそうなヴォルフラムの先ほどの顔を思い出しながら、ユーリは部屋を出た。



END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ