ユヴォルユで50のお題

□14 綺麗だね
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14 綺麗だね







ぼくは風呂を終えて一足先に一人で寝室に入った。

なんだか甘い匂いがするなと思ったら、テーブルの上に白い花が十何本か活けてあった。

ぼくはテーブルの目の前の椅子に座ると、ワインをグラスに注いだ。

なんとなく、花を見ながらグラスを傾ける。

部屋の扉があいて、ユーリが入ってきた。

「ユーリ」

ユーリはぼくが花の目の前で酒を飲んでいるのを見ると笑顔を見せた。

「気に入った?おれが頼んでそこに活けてもらったんだ、その花」

ユーリはぼくの正面の席についた。

王自ら水をグラスに注いで飲みはじめる。

ぼくはワインの瓶をグラスに傾けながら尋ねた。

「なぜ、この花を?」

「なぜって…。この花、何かあるのか?」

「この花は、母上が品種改良した特別な花だ」

ユーリは黒い瞳をきょとんと丸くした。

「え、摘んだらいけなかったかな?」

「構わないだろう、今はたくさん咲いている」

ぼくは花瓶の方に身を乗り出して、花の匂いを嗅いだ。

「…『麗(うるわ)しのヴォルフラム』?」

「なんだ、知っていたのか?」

ユーリの言うとおり、この花の名前は『麗しのヴォルフラム』だ。

少々気恥ずかしい名前だが、もう付けられてしまったものは仕方ない。

「ううん、そういう名前の花があるって知っていただけで、この花がそうだとは知らなかったよ」

ぼくは少し笑った。

「そうか。どう思う、さすがにこんな花なんかに男の名は不釣合いだろう?」

「そうかなあ…立派な、迫力のある花に見えるからいいと思うけど」

そう言ってユーリは花をそっと撫でた。

「ヴォルフラムというからには棘でもついてるのかなと思ったらそうでもないんだな」

どういう意味だ。

相手をするのもばからしいのでぼくは黙ってグラスに口を付けた。

「おれがどうしてこの花を飾ろうと思ったかわかる?」

「何か気に入ったのか?」

「この花が庭で一番、綺麗な花だったんだ」

ユーリにそう囁かれてぼくは黙り込んだ。

「『ヴォルフラム』の名をもらっただけのことはあるよね」

ユーリが身を乗り出してテーブル越しに唇を寄せてきたので、ぼくはそっと瞼を閉じた。

花の甘い香りが部屋にふんわりと漂っていた。



END

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