ユヴォルユで50のお題

□13 これでよし!
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13 これでよし!






朝、起きたら、おれの額のすぐ上にヴォルフラムの腕があった。

その腕の下敷きにされたおれの前髪を何とか引き出して起き上がると、おれは
髪にかかる感触に違和感を感じてドレッサーの鏡を見る。

……ハンター×ハンターのゴンのように見事に逆立った前髪になっていた。


*          *          *


「おはようございます……ユーリ」

部屋に入ってきたコンラッドがおれの顔を見て一瞬息を止めた。

「おはよう、コンラッド」

コンラッドは少しおれから顔を逸らすと、口を押さえた。

今、ぷって笑ったな。

「…見事に爆発しましたね、どんな寝方をしたんですか」

「おれは普通に寝てたよ。おれはね」

「はあ、なるほど」

そう言うとコンラッドはいまだにぐぐぴと寝息を立てているヴォルフラムの寝顔を
見た。

「どうしよう、こんなに見事な寝癖がついたことはないよ」

「大丈夫ですよ」

コンラッドはドレッサーの上に置いてある霧吹きとブラシを取った。

「こういうのは少し濡らして…」

おれの前髪の根元に向かって、霧吹きを柔らかく噴射する。

「ブラシで梳かせば、直…らない」

その時コンラッドは真正面からおれの顔を見てしまい、下を向いて震えた。

笑うならもういっそ堂々と笑え。

「コンラッドたちの柔らかい髪と一緒にするなよ。きっちりシャンプーしないと
このままだぞ」

ヴォルフラムが目を覚ましたらしい。

もぞもぞと動いてこちらを見ている。

「…今日は随分と斬新な髪型だな、ユーリ」

おれは半分笑いながら答えた。

「寝癖だ、誰のせいだと思ってるんだよ、ヴォルフラム」

コンラッドがまだおれの髪をブラシで梳きながら訊いてきた。

「シャンプーしてきますか?」

「うーん…キャップでもあればごまかし効くんだけどな」

おれの言葉にヴォルフラムが飛び起きた。

「キャップってなんだ、男か?!」

「帽子の種類だよ、ヴォルフ」

コンラッドがブラシをおれの髪から抜いた。

「では帽子を用意させましょうか?」

「うん、それでいいよ」


*          *          *


侍女が届けてくれた、つばの広くて羽根飾りがひらひらついた帽子をおれは手に取った。

「帽子は帽子だけど、これじゃキャップじゃなくてハットだろ?!」

「ハットってなんだ、男か?!」

おれはやけくそでヴォルフラムに言ってやる。

「どっちかっていうとハットよりキャップが男!」

ヴォルフラムは文句を言いながら、それでもまだベッドの上に転がっている。

「男なんじゃないか、ユーリ!」

コンラッドが首を横に振った。

「ユーリ、間違った知識をヴォルフラムに植え込まないでください…」

おれはその帽子を光にかざすようにしてじっくり眺めた。

どれだけ見ても華麗な、貴族のお嬢さんが似合いそうな帽子だ。

「確かに寝癖は隠れるだろうけど、これじゃ、恥ずかしくてかぶれないよ…似合わない」

ヴォルフラムはおれの顔と帽子を覗き込みながら言った。

「そんなことはないぞ。僕はユーリならその帽子もよく似合うと思うが?」

コンラッドも言った。

「そうですねえ…」

しかし、コンラッドはどこかに笑いが混じった言い方だ。

「あのなあ。学ランにこのハットって組み合わせ自体間違ってるって!」

それでも一応、次男と三男に期待の混ざったまなざしを向けられて、おれはそのハットを
軽くかぶって見せた。

兄弟は黙り込んでおれを見つめた。

ドレッサーの鏡の方を向いて、自分でも確認してみる。

「やっぱり変だよ、学ランにこの帽子は」

帽子をスポッと取ると、二人は残念そうな顔をした。

「な、何…」

ヴォルフラムが拗ねた顔で言った。

「服に帽子が似合っていたかはともかく、顔に帽子は似合っていたのに…」

おれはヴォルフラムの頭に帽子をすっぽりとかぶせた。

「あ、可愛いじゃん」

「なにをー?!」

「さて、やっぱおれシャンプーしてくるから待ってて、コンラッド」

「わかりました」

ぎゃいぎゃいと言っているヴォルフラムを残しておれは寝室を後にした。

しっかりと寝癖がなくなるまでにおれは二回シャンプーをしなければならなかった…。



END

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