ユヴォルユで50のお題

□11 取り替えっこ
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11 取替えっこ








夜中にヴォルフラムの寝相に巻き込まれて、二人一緒にベッドから落っこちた。

「痛た…」

「ユーリ、大丈夫か?!」

かけられた声は、いつものアルトではなく、どこかで聞いたことのある変声後の声だった。

「うん、大丈夫」

とりあえず返事をした。

アルトの声で。

「え…」

うえー。

目の前のどこか品のいい自分の顔が気色悪い。

「どうしてぼくがもう一人目の前にいるんだ?」

おれの姿をしたヴォルフラムはそう言った。

「そう言うお前はおれの姿をしてるんだよ。体が入れ替わったんだ」

ヴォルフラムは慌ててドレッサーの鏡を見た。

「ああ! いつの間に!!」

おれは自分の手を見た。色が白くて血管が透き通って見えそうだ。

前髪も引っ張って見てみる。光を弾いてキラキラと蜂蜜色に輝いている。

やっぱり、綺麗なものだな。

呆然と鏡を見たままのヴォルフラムに声をかける。

「心配しなくても、入れ替わったときと同じ衝撃が加われば元に戻るはずだから」

「詳しいじゃないか」

「まあね」

「入れ替わったときって?」

「覚えてないのか、二人一緒にベッドから落ちたんだ。あれがきっかけだぞ」

そう言うとヴォルフラムはおれの顔でがっくりと肩を落とした。

かわいくない。

おれの姿だとときめきも3割減少だ。現金なおれ。

ヴォルフラムはドレッサーに座り込んで本格的に鏡と向き合い始めた。

自分の(おれの?)頬をつついては微妙に微笑んで鏡を覗き込んでいる。

まるでアヤシイ人だ。

「何やってるんだよ、ヴォルフラム」

「えっ、いや、その、この顔を好き勝手出来るのも今のうちかと思うとつい…」

おれはヴォルフラムのいるドレッサーの鏡に一緒に入り込んだ。

おれの(ヴォルフラムの)10人並みの姿のうしろに、天使のような金髪碧眼の少年の姿が映る。

その天使が口を開いてとても雑な言葉遣いで…おれの言いたいことを言った。

「ずるいぞっ、おれだっていろいろしてみたい!」

おれの姿が口を開いて品のいい喋り方をする。

…鏡を見ていると余計混乱しそうだ。

「お前は元に戻ったって好き勝手出来るだろうがっ、お前はこの国で最高権威者の魔王なのだぞ?! 
そうだ、いつでも好きにすればいい! ぼくはお前にそんなコトすれば不敬罪でだな…」

「…好きにすればいいの? いつでも?」

ヴォルフラムは鏡越しに頷いた。

おれはため息をついた。

「ユーリ?」

「その顔で言われても興ざめだ。早く元の身体に戻ろう、ヴォルフ」

おれはヴォルフラムの腕を掴んだ。

ヴォルフラムはいいにくそうに言った。

「あの…その前にぼくは少し…花を摘みに行ってくる」

「花…ぁ? こんな時に? おれも行く」

「ついてくるな、ばかもの!」

「その顔で言われると余計に腹立つな! 行くったら行く! 誰かに会ったらどうするんだよ」

「すぐ帰ってくるから! …いや待てよ。ユーリ、やっぱりついてきてくれ」

「…ついてきて『くれ』?! どうしちゃったんだよ、ヴォルフ?」

おれの腕を引いて、部屋を出ると思いきや、ヴォルフは寝室についているレストルーム(といっ
ても無駄に広い)に入った。

「な、何…?」

「さて、ユーリ」

微笑みを向けられても、残念ながらその顔じゃあまり嬉しくない。

「なんだ?」

「ぼくは用を足したいのだが、その、触れるのに抵抗があってな」

「…ひどくないか? 婚約者だぞ?」

「普段の身体ならこんな抵抗はないさ!」

「ま、いいけどさ…。じゃあ、向こう向いて立って」

「え、立ってするのか?」

「座ってするのか?」

「普段はそうだが?」

「座ってするなら別に触らないじゃん」

「拭くときとか」

「……。まあ文化の違いかな」

どうやら、おれの方法に合わせて、立ってすることにしたらしい。

後ろから持ってやる。

ふと、はたから見た様子を想像してしまった。

これは実際は逆だけど、見た目にはおれの後ろからヴォルフラムが手を伸ばしてあそこを持って
いる様子…に映るはず。

それってなんだろ、両手を怪我してる時くらいにしかそんな図にならない。

なんだか貴重だと思うと興奮したりして…。

「おい、ユーリ!」

「な、なに?」

ヴォルフラムはそれをパジャマにしまいながらおれを睨んだ。

「なんだか尻に当たっているが……」

「あ、あはははは…。ごめん、ちょっと想像しちゃって…勃っちゃった」

「人の身体で不埒なことをおいそれと想像するな!」

「そう言われてもさあ。なあ」

口付けようとしたら、思いっきり顔を手で遠ざけられた。

「せめて先に手を洗え」

おれが手を洗っている間にヴォルフラムはすたすたとレストルームを出て行ってしまった。

そんなのあるか?

追いかけておれがレストルームを出て行くと、既にヴォルフラムはベッドに潜り込んでいた。

「ヴォルフラム」

おれは丸まって寝ようとしているヴォルフラムに覆いかぶさった。

「ユーリ。本気か?!」

「なにが?」

「自分の顔と同じ相手で、気持ち悪くないのか」

「中身がヴォルフラムだと思えば、なんとか。そりゃ、いつもの方がいいけど」

「この変態!」

「変態って」

「ぼくは自分に迫られたくはないぞ」

「しょうがないなあ…」

おれはヴォルフラムを拘束していた腕を解いて、ヴォルフラムの横に転がった。

「やめる気になったか」

「とりあえずこの体が静まってから」

「から?」

「それぞれ元の身体に戻ろう。それからあらためて、ね」

「ね、じゃない。こんな夜中に何を言ってるんだ」

「とにかく元の身体には戻らなきゃ」

ヴォルフラムがあくびをひとつした。

「ねむい…」

いつもより眠たがりでない気がするのは身体が違うせいかもしれない。

多分、元の身体に戻った途端こいつは爆睡だな…。

今日も欲求不満かあ…。

「よし、ヴォルフラム、ベッドから落ちるぞ」

「それで本当に元に戻るのか?」

「たぶん。戻れなきゃおれ、泣くぞ」

「それは面白い。ぜひ見てみたいものだ」

「言ってないで、早く、やるぞ!」

勢いをつけてごろごろと転がり、どたっと。

3回試したけどその夜は元には戻れなかった。




*          *          *




ぼろが出そうなのでみんなには入れ替わったことを素直に話した。

そうしたら、ヴォルフラムが主に魔王の表立った方の仕事をやらされ、ビーレフェルトの仕事がさっぱり
わからないおれは魔王の書類仕事が終わった後、暇になった。

暇つぶしに、と村田が呼ばれた。

「またそんなことがあったんだ〜」

村田が全く大変そうでなく、言う。

「花摘みに行くって言っていきなりトイレだし」

「渋谷。お花摘みに行くっていうのはね、うら若い婦女子がお手洗いに行くときに言う隠語なんだよ」

「あいつ、婦女子かよ…」

「渋谷ー?」

「なんだ?」

「焦ってないの?」

「戻れなかったこと? そのうち戻れるだろ。二人で一緒に寝てて入れ替わったのは確かで、いつも
一緒に寝るわけなんだし」

「こっちにいる間はね」

「! そうか、スタツアっちゃったらどうなるんだろ…。おれ、この姿で向こう行くのか?」

「あるいはフォンビーレフェルト卿が向こうへ行くか」

「やばいじゃん、それ!」

おれは、村田を置き去りにしてヴォルフラムのところへ走った。

ヴォルフラム。

突然走ってきたおれに、驚いてヴォルフラムどころか、ギュンターもコンラッドもこっちを見てる。

「ヴォルフラム、何があっても一緒にいるぞ!」

こうなったら戻るまでスタツアってもなにがあっても一緒にいるぞ! とそう言いたかったんだけど、
息が切れてそれだけ言った。

コンラッドが頭を抱えた。

ギュンターが何かいろいろ口走ってる。

ヴォルフラムは、書類を放り出しておれの首に抱きついてきた。

おれの耳元で小さな声で、ぼくもだ、と言ってくれた。

その声がいつもの可愛いアルトじゃないのはちょっと残念だったけどね。




*          *          *




ちなみに、入れ替わった原因がベッドから落ちただけではなくて、凄まじい寝相のヴォルフラムの
頭突きもプラスされていたっていうのはそれから1週間後に身をもって知った事実だった。

ということはおれの欲求不満も1週間後まで引き延ばされていたってことで…。

でもやっぱりヴォルフラムはヴォルフラムだった、眠いと言い張って寝てしまった。

お前、いつでも好きにすればいいと言ってなかったか?!

言ったよな?!




END




ちなみに、ドイツでは男性は「紳士は座ってする」らしいです。

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