ユヴォルユで50のお題

□10 愛の証
1ページ/1ページ

10 愛の証





夜中に、眠っているぼくを静かに撫でる優しい手を知っている。




以前、普段のユーリは少しつれなかったんだ。

しかも、誰にでも愛想がいい八方美人の浮気者。

ちょっと美人の女が相手だとすぐに鼻の下を伸ばす。

おまけに、すぐに「男同士じゃん」と言い出すのが口癖だった。

(性別なんて変えようもないものを持ち出すなんて卑怯じゃないか?)




最近、そういえばと振り返ると、その口癖は激減していた。

その変化は少しずつだったから、いつもユーリを見ていたぼくでもなかなか解ら
なくて。

時々ユーリがぼくの姿をじっと見ていることも、グレタに言われてやっと気付いた
くらいだったんだ。

「ユーリがね、よく眩しそうにヴォルフを見てるの」

「眩しそう?」

「目を細めて。ヴォルフの金色の髪がきらきら、綺麗だからかなあ」

「そうか?」

「それとも瞳が宝石みたいだから?」

そんなことを言って瞳を覗き込んでくる娘を抱き上げる。

「グレタの方が綺麗だぞ」

「ユーリも綺麗だよー?」

「そうだなあ……ユーリは格別だな」

「でもユーリは、本当にヴォルフを見てる時、うっとりしてるんだよ」

「ぼくは気付かないが」

「だって、ユーリ、ヴォルフと目が合いそうになると目をそらしちゃうんだもん」

そう言われて気を付けていたら、確かにユーリはぼくから目を逸らしていた。

だから、雨のある日までは、ユーリがどんな顔でぼくを見ているのかわからなかった
んだ。

雨で、外が暗い日だった。

ぼくは雨の様子を見ようと窓に近寄っていた。

ふとみると窓硝子に室内の様子が映っていたんだ。

ぼくの顔が斜めから見える背後の位置にユーリがいた。

硝子に映ったユーリの顔がぼくには見えた。

確かにあれは、見蕩れている表情だった。

ユーリが、ぼくに?

その時ぼくは振り向いたけど、やはりユーリは目を逸らして、はぐらかされてしまった。

「窓の外……雨、見てただけだよ」

それ以上なんといって問い詰めたらいいのかわからずにぼくは黙った。

どうして堂々とぼくを見ない?

ぼくに心が動いてきていることを自分でまだ認められないのか。

あんなに恋をしている顔を見せておいて。





同じ寝台で眠る。

眠りにつくときはまるでそう決めてあるかのように一定の距離を開けて横になる。

しかし、ぼくの寝相が悪いせいか、それとも温もりを求めて自然に寄っていってしまう
のか、夜中にはぼくたちは寄り添って眠っている。

そしてぼくが寝言を言ったり動いたりして、ユーリが眠りから覚めた時、ユーリが笑いを
堪えるような息を漏らしながらぼくの頭や肩を撫でていることをぼくは知っている。

その手は静かで優しくて、何より雄弁で。

ぼくのことを好きだと毎夜告げている。



END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ