ユヴォルユで50のお題

□09 デート中
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09 デート中






家へ着くまでがデートです。

おれたちの場合、城へ着くまでがデートです…と言うか、城へついてもデートだな。

ヴォルフラムはおれの部屋に住んでるんだから。

今日は近くの村へ視察へ出かけたはいいが、視察を終えるとコンラッドは急に、一人
で帰ってしまった。

「たまには二人でゆっくりしてくるといいでしょう。城では人目もありますからね」

少し含む口調で、だが顔は爽やかな微笑みで。

そうしてウェラー卿コンラートに気を利かせていただいたおれとヴォルフラムは、近
くの観光を終えて、ただいま夕暮れの帰り道、一番星が綺麗な他は何もない林道を馬
で歩いている。

しかも、おれの双黒に、黒い馬、白い馬、二頭並んでたんじゃあまりにも目立つって
んで、おれはヴォルフラムの馬に乗せてもらってる状態だ。

ヴォルフラムは例のごとくおれのことをへなちょこと言いながら多分内心はご機嫌だ。

ただ乗せてもらうばかりで少し情けないが、まあそれは仕方ない。いいとしよう。

それより、午前中あんなに晴れていたのに、午後になったら曇ってきて、更に吹いてき
た風がまた冷たくて冷たくて…。

寒い…。ただ馬に乗せてもらっているだけで動かないと余計に寒い。

さすがに体育会系のおれもここ眞魔国の冬の夜の屋外で風に吹かれて手先足先が冷えて
きた。

すでにもう痺れてきていて感覚がない。

おれは皮の手袋を外し、両手の指先に震える白い息を吹きかけた。

これではしっかりした手袋も意味がない。

「ユーリ、寒いのか」

「ちょっとな」

おれの顔を覗き込んできたヴォルフラムに笑顔で返した。

するとヴォルフラムは馬を止めた。

「かしてみろ」

ヴォルフラムは手袋を外すとおれの後ろから手をのばしておれの両手を掴んだ。

その手は信じられないくらい温かかった。

「冷たいな」

ヴォルフラムはおれの背越しにおれの手に息を吹きかけた。

息は真っ白だった。そして温かかった。

でも温かいのは少しの間だけで、すぐまた冷たくなってきてしまった。せっかく
温めてくれているヴォルフラムの手までも。

おれがヴォルフラムの温かさを奪っているという罪悪感と、後ろから抱きしめ
られているかのような体勢の気恥ずかしさ(…いや歓迎なんだけど)もあって、
おれは強がった。

「大丈夫、これくらい平気だよ、ヴォルフ」

「風邪でもひかれてはかなわない、近くに教会があるから少しだけ休もう」

そうして近くの無人の教会へおれたちは入った。

教会の扉を閉めると風がない分、大分ましだった。

ヴォルフラムは黙ってまた手袋を取っておれの手を取った。

「…どうしてこんなに温かいんだ、ヴォルフ」

「ぼくを誰だと思っているんだ。寒ければ炎でも出して温まるさ。なんなら今
出そうか?」

「いや、いらない…」

おれはヴォルフラムの瞳を見つめた。

おれの手と、おれが着ている黒い服がエメラルドグリーンの瞳に映っている。

「こうして温めてくれてる方がいいよ」

「そうか」

「…体が冷え切った者同士が温まるのに裸になって…いう例の『伝説』さあ、
『伝説』じゃないんだけど」

ヴォルフラムの頬がバラ色にかあっと染まった。

「ここは教会だぞ、そんなことができるか!第一そこまで冷え切ってるようには見えん!」

「いや、やろうとは言ってないけど。ちょっと言ってみただけ」

「血盟城に戻ったら真っ先に風呂に入ろう」

「…もしかして、誘ってくれてるのか?」

ヴォルフラムは黙っておれを睨んだ。これは肯定だろう。

おれは盗むようにヴォルフラムにキスをした。

「!神聖なる教会で何をする!」

「だって、教会って結婚式の時にキスするだろ?」

「う…」

「だいぶ先のことかもしれないけど、予行練習、なんてね」

ヴォルフラムは真っ赤になってうつむき、おれの手を痛いほどギュウッと握った。

というか痛い。さすが武人。

「…どうだ、大分温まってきたんじゃないか?」

「うーん、もう少し」

おれはヴォルフラムがおれの手を温めていてくれているのがうれしくて、『もう十分だよ』と言うのをほんの少しだけあと伸ばしにした。

帰りが遅くなった分、やはり冷え込みは厳しくなっていたけれど、もう手はさっき
ほど冷えることはなかったし、何よりヴォルフラムが後ろにいるのでおれの背中が
とても温かかった。

「おかえりなさいませ、陛下、閣下」

「ただいま!」

「すぐご夕食のご準備を」

「ああ、さきに風呂にするから」

「ぼくもだ」

コンラッドが寄ってきて小さな声で訊いた。

「おかえりになってすぐ風呂とはどうしてです?ユーリ」

「寒かったんだよ」

「ヴォルフラムも?」

「ああ」

「どこかでよからぬことをしてたわけではありませんよね、まさかそんなことは」

「まさか」

おれはそう答えたが、コンラッドはヴォルフラムの顔を見た。

ヴォルフラムはおれがキスをした時のことを思い出したのか、顔を赤くしていた。

コンラッドがおれに笑顔を向けた。

「ユーリ?」

「いや、本当に神に誓って…いや神様いないんだっけ…コンラッドの言うような
すっごいことはしてないからっ!」

「俺の言うようなすっごいことってなんですか?」

「……16歳のおれに言わせちゃいけないようなこと?」

コンラッドの笑顔の何かが変わった。

「はいはい、ヴォルフラムは今日は俺と寝ましょう。あなたたちはまだ婚前です
からね。風呂も自室の風呂を使って」

「コンラート?!」

「コンラッド!」

コンラッドはヴォルフラムの背中を押して連れて行ってしまった。

今日はせっかくのデートだったはずなのに、帰ったところで終わってしまった。

仕方なく、おれはヴォルフラムが置きっぱなしにしていたアヒルちゃんと一緒に風呂に入って、一人広すぎるベッドでゴロゴロと転がって夜を過ごしたのだった。



END

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