ユヴォルユで50のお題

□07 結婚式
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07 結婚式







「式を挙げるなら、あの木の花が咲くころがいいな」

執務室の椅子に掛け、雪の積もる窓の外を差しながらユーリは言った。

傍についていたギュンターが訊く。

「何のお式でしょうか? 陛下」

「結婚式だよ」

ギュンターは持っていた書類をバサバサと全部落とし、ぼくも持っていた資料を取り
落した。

コンラートが窓に寄っていって、外を見た。

「どの木ですか? ユーリ」

ユーリは椅子ごとくるりと窓の方を向いて再び外を指さして言う。

「あの木。花壇の横に植わってる、咲くとすごくいい匂いのする花の木」

「ああ。あれですか」

ユーリとコンラート二人で話が進んでいる。

「けけけけ結婚式ですかっ、陛下――――っ!?」

ギュンターが絶叫した。

「うん」

けろりとユーリは頷いた。

「ど、どなたと……!?」

ギュンターの質問に、ユーリは少し眉を顰める。

「やだなあ、ヴォルフに決まってるじゃないか。婚約してるんだぞ?」

「そうですね」

コンラートがニコニコしてユーリに同意した。

ギュンターは何事かぶつぶつ言いながら落ちた書類を拾い集め、拾い終わったところで
一つ咳払いをして真顔に戻って言った。

「知りませんでした、そこまでお話が進んでいらっしゃったとは。魔王陛下のお式と
なりますと準備もありますのでもっと早めにお教えくださいませんと」

漆黒の瞳でユーリは邪気なく微笑む。

「ううん、今初めて言ったから」

ギュンターとコンラートがぼくを見た。

「……ヴォルフラム」

コンラートの静かな呼びかけに、半分うわの空で返事をした。

「…………ああ?」

「あの、聞いてなかったのか?」

「何をだ?」

「結婚式」

きっぱりとしたコンラートの言葉だったがぼくの中に入ってくるのには時間を要した。

「……結婚式? ちょっと待て。……誰と誰のだ?」

「ユーリと、お前の結婚式」

ようやく頭が動き出し、ぼくはユーリの顔を見た。

「何!? 初耳だ! ユーリ!」

「なんだよ、飛びついて喜んでくるかと思ったのに」

拗ねたような顔をしたユーリに、ぼくは大きな声で返す。

「心の準備ってものがあるだろう! こんなほかのやつらがいるところで聞かされて
ホイホイと喜べるか!」

「嫌なのか?」

嫌かと問われれば、もちろん嫌と言えるわけがなかった。

顔が熱くなるのがわかって、少しうつむいて返事をした。

「い、嫌じゃない……」

「いいんだよな? おれと結婚しても」

「あ、ああ……もちろんだ……」

顔から火が出そうだ。

「じゃ、決まりー! あの木の花が咲くころに挙式!」

浮かれたような、楽しそうなユーリの声が執務室に響いた。

「へ、陛下……。そうしますと準備が……かなり……恐ろしく忙しくなりますが」

「え、無理?」

「い、いえ、不可能では、ないかも、しれませんが……」

「おれにできることは何でも言ってよ、おれ頑張るからさ。あれが咲いてる頃がいいんだ」

ぼくは眩暈を覚えながら、窓の方へ歩いて寄った。

「どの木だ?」

ユーリは椅子から立ち上がってぼくの傍に立ち、ぼくの肩を抱きながらもう片方の手で一つの
木を指さした。

「あれだよ」

「ああ。しかしなぜあの木がそんなにいいんだ?」

「あの木がいいっていうか」

「なんだ?」

「ちょうどあれによく似た木が地球にあるんだ。それが地球の日本で咲くころが六月なんだよね。
あの木が咲くころのこっちの気候も六月っぽい感じだし」

「六月?」

「うん、それでさ、六月に結婚式を挙げた花嫁は幸せになれるって言われているんだ」

「幸せになりたいのか?」

「違うよ、幸せにしたいんだ」

「ユーリ」

「まあ、でもヴォルフが幸せになったら、おれも幸せになっちゃうんだけどね」

横を向いてユーリの顔を見ると、もう既に幸せそうに微笑んでいた。

「とりあえず、仕事を進めないと式なんて挙げられませんよ、お二人さん」

コンラートの声にユーリはぼくの肩に乗せていた手を離し、慌てて椅子に戻った。

あの木の花が咲くまで、あと半年くらいだろうか。



END

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