ユヴォルユで50のお題

□05 大丈夫だから
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05 大丈夫だから







ため息をついた。

人を好きになるとこうもため息が出てくるものなのか。

最近おれは、あまりヴォルフラムを近くで見ないようにしている。

会話もあまりしないようにしている。

だってさ、今でもこんなに好きでまいっちゃってるのに、これ以上好きになっちゃったら
どうするんだよ。

顔見ただけで動悸息切れ眩暈がするんだぜ?

話しかけられると心臓が飛び出そうになるし、返事をするのも声が震えないようにするのに
精いっぱいだ。

もう、こんなに好きだと顔に出ちゃいそうで嫌なんだよ。

いや、これ以上好きになったら、自分が何するかわかんなくて怖いんだよ。

あの綺麗な顔見てると、唇に目が行ったときにはキスとかしたくて仕方ないし(どんな味
すんのかなーとかばっか考えてる)。

それはまずいと思って瞳を見てれば吸い込まれそうで、話なんか聞けやしない。

肩を見ればついついぎゅーっと抱きしめてみたくなる。

長い指先の形のいい手も、掴んで撫でたくなってしまう。

これ以上好きになるわけにはいかないんだよ、どう考えてもさ。

かといって、離れてばかりいると、会いたくて仕方なくて胸がきゅーってなるんだ。

息苦しいような、胸の奥どこかを握りつぶされてるような、苦しい感じだ。

だから、遠くからヴォルフラムを眺める。

遠目にも蜂蜜色の髪はキラキラと輝いていて、その少し小柄な姿を見るとふわっとした心地の
いい、嬉しいような、華やかな気持ちになる。

大きな瞳だから遠くからでもエメラルドグリーンの澄んだ色合いがわかる。

多分、近付くといつものような陽の光と優しいシャンプーの香りがするんだろうな、って
思いながら見つめる。

でも、最近、ヴォルフラムは少し様子がおかしいんだ。

元気がないというか、イライラしてるというか。

特に今日はイライラ最高潮みたいだ。

ここまで来ると心配で放っておけない。

「あのー、ヴォルフラムさんー? 最近どうしたんですか?」

「そんな遠くから喋るな!」

「だって……」

「なにが、だって、だ!?」

ヴォルフラムはものすごい勢いでつかつかとおれのほうに歩いてきた。

おれは慌てて逆の方向へ歩いていく。

「なぜ逃げる!?」

「ヴォルフが追いかけてくるからっ」

「そもそもどうしてそんな遠くにいるんだ、お前は!?」

「ど、どこにいようとおれの勝手だろー?」

ヴォルフラムがぴた、と足を止めた。

「そうだな、ここはお前の城だ」

2メートルほどの距離を開けて、おれたちは立ち話になった。

「それで、ヴォルフが最近元気なかったりイライラしてるのはどうしてなんだ?」

「お前が! ……ぼくのこと、避けてるからだろう」

「避けてなんて……」

「避けてるじゃないか! 近くに寄ってこないし、話もあまりしなくなったし、風呂も
誘ってこない」

「えっと……」

「近くにいたらいたで、顔を背けるしな! 今もそうだ! そんなにぼくが嫌になったのか」

「そんなことないよ!!」

嫌になったのか、と言われて、つい力いっぱい否定しながらヴォルフラムの姿をまともに見た。

2メートルの距離があるとはいえ、やっぱりドキッとする。

つかつかとヴォルフラムがまた、寄ってきた。

おれは後ろも見ずに後ずさりした。

ドン、と何かに背中が当たった。壁だ。

まだヴォルフラムはおれに近づいてきて、1メートルもないところでやっと止まった。

やめてくれよ。腕を伸ばせば届く距離じゃないか。

「ぼくに近付かなくなった理由はなんだ? ぼくは何かお前に悪いことをしたか? たとえ
どんな答えでもぼくは大丈夫だ。聞かせてくれ。もうこれ以上、ああでもないこうでもない
と悩んでいたくはない」

エメラルドの瞳がやっぱり綺麗だなとおれはどこかで思いながらヴォルフラムのなんだか
切なそうな声を聞いていた。

壊れそうに鳴る心臓をなんとか落ち着かせようと胸に震える手を当てながら、ヴォルフラムに
尋ねる。

「もしかして、おれがお前に近付かないからふさぎ込んでいたのか?」

「ぼくが悩むなんてお前のこと以外にない」

「……」

「まあ、言えないなら、いい。お前がぼくを嫌いになったとしても、ぼくがお前を好きなことは
これからも変わらない事実だ」

ヴォルフラムの勝手な言葉におれはカチンと来て怒鳴るようにして返した。

「嫌いになんてならないよ!」

「ユーリ」

少し下を向いて、言った。

「嫌いなんかじゃない、好きなんだ、ヴォルフ」

「ユーリ? ぼくに合わせて無理しなくても」

今度はちゃんとヴォルフラムの眼を見た。

「合わせてない、無理なんかじゃない! おれだって好きなんだ! ……でも」

「……でも……?」

どこか不安そうな、でもきょとんとしているヴォルフラムの肩に手を伸ばして引き寄せ、
抱きしめた。

「怖いんだ。これ以上好きになっちゃいそうで。今でもこんなに好きなのに、これ以上
好きになったら暴走しそうなんだ」

「……ユーリが暴走したら、ぼくが諌めてやる」

「ヴォルフラム」

「だから大丈夫だ」

「ヴォルフラム、好きだ」

「大丈夫だから、ユーリ」

「うん、好きだよ」

腕を緩めてヴォルフラムの顔を見て、そのエメラルドと視線を合わせた後、唇を重ねた。

「好きなんだ……」

壊れたCDプレーヤーのように、『好きだ』と繰り返した。

何度キスしたかわからないくらいキスをした。

キスの合間に見るヴォルフラムの表情はもの凄く綺麗で、おれはため息を漏らしながら
口付け、とてもじゃないけど味なんてわからなかった。

やっぱり、もっと好きになってしまった。



END

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