ユヴォルユで50のお題

□04 息子
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04 息子







気がめいるような長雨の夜。

ユーリは外で運動できないのでぼく以上にくさっているようだ。

大きな寝台の上で胡坐をかき腕を組んで、ユーリはため息をついた。

「おれ、息子も欲しい」

多少図体が大きくなったととはいえ、まだ18歳の身分でそんなことを言うので笑って
しまった。

「あ。笑うなよ。お前、そんな女みたいな顔してるんだから、息子の一人や二人産んで
見せろ」

子どもというのは顔で産むもんじゃないぞ。

欲しければ自分で産め。

ユーリはぼくの肩を押して寝台に縫いつけた。

なんだ、遠回しなお誘いの言葉だったのか?

そう返すと、ユーリは手を緩めて頭を横に振った。

「違ーう。おれはほんとに息子も欲しいと言ってるんだ」

「では養子を迎える以外に方法はあるまい。しかし、子どもならすでにグレタがいる
じゃないか。どうして?」

「だってー……。グレタは女の子だし、お嫁に行っちゃうじゃないか!?」

「婿養子をとればよかろう」

そう言ったぼくの頬にユーリはつんつんと軽く人差し指を押し付けてきた。

「そんなの、グレタがどんな相手を好きになるかわかんないだろ? もし相手がいい
ところの長男だったら嫁に行かざるを得ないじゃないか」

「相手にほかに兄弟がいるのなら婿に来てもらうように話し合いを進めれば。そもそも
王家や貴族に一人兄弟と言う方が珍しい」

「グレタももう12歳、どんどん綺麗になってきたし、そのうちいろんな男がグレタに
求愛するようになるんだ……。いや、もうそんなふうになってるかもしんない!」

「落ち着いて話を聞け」

「ヴォルフ……。グレタがお嫁に行っちゃったら寂しいよなー」

うなだれた頭を飾る漆黒の髪を撫でた。

「そうだな」

なるほど、こうして年の離れた兄弟はできるものなのか、と少し脱線して考えた。

考えているうちに、また寝台に体を押し付けられ、ユーリの顔を見上げた。

「じゃあ、子作りでも」

「できるかっ! というかどう考えても言うことが逆だろう!?」

本来ならこの手の無茶を言うのは自分の方で、常識にのっとった反論をぶちまけるのは
ユーリの役目だ。

……そんなに息子が欲しいのか?

「ユーリ。やはり、そんなに子どもがまだ欲しいのなら、しかるべき手続きをして養子を
だな……」

「ヴォルフによく似た息子がいいなあ」

「は?」

「コンラッドがいかに昔のお前が可愛かったか、話してくれたんだ。そりゃあもう目に
入れても痛くない可愛い蜂蜜ちゃんでさ……」

「待て待て待て! まさかそれだけで息子が欲しいと言い出したのではあるまいな?!」

雨のせいで落ち込むユーリのためとはいえ、コンラートはまた余計なことを。

「立派な理由じゃん。おれにはもう昔のお前は見られないんだし、写真もないし」

〜〜〜〜〜〜〜!!

「……お前がそこまで言うのなら、仕方ない。ユーリ以外の者には興味のかけらもないが、
国内から最適な女性を選んで子を成したのち養子に迎えよう!」

「えっ」

「どうだ! 双方男では子はできないのだからこの方法しかあるまい!?」

「いやだ!」

「そうだろう! 嫌だろう!?」

「う、うん……イヤです、全身全霊かけてイヤです」

「では今後一切この話はするな! わかったな」

「あれ……ヴォルフ、怒っちゃった……?」

「怒らずにいられるか!」

「ごめん、機嫌治してよ」

顔中に甘いキスが降ってきた。

次第にそれは色を帯びたものになり、ため息をつきながらユーリの熱い手に身をゆだねた。

雨は相変わらず柔らかく降り続いていた。



END

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