ユヴォルユで50のお題

□03 娘
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03 娘







ユーリは親バカだ。

娘にかっこいいところを見せたがる。

どこかへ出かけると、いつもお土産を買って帰る。

喜ぶことなら何でもしてしまいがちだ。

そして、娘のグレタは、ユーリとぼくの仲がいいと喜ぶんだ。

そんなわけでユーリのやつはグレタの前ではこれ見よがしにぼくの肩を抱いて見せたり、
手をつないだりする。

悪い気はしない。

決して悪くはないんだ。

たとえグレタを喜ばせるためでも、ユーリがぼくに触れてくるのを嫌なわけがあるものか。

ただ、そういう理由だと分かっているのにいちいちときめいてしまう自分がほんの少しみじめな気がするんだ。





ユーリの手はいつもひんやりと冷たい。

ドキドキと指先まで鼓動が響いているぼくの手に、それが心地いい。

お茶の時間も終わるころ、みんなでテラスにまだ残っていた。

ユーリとぼくは椅子に掛けたグレタの傍に立って、例にもれず手をつないでいた。

「姫様、ちょっとよろしいですか?」

サングリアたちが、グレタを呼んだ。

「なあに?」

グレタが呼ばれた方へ姿を消した。

「ふう。さすが人気者だな、グレタは」

グレタが去った方を見ながら、ユーリはつないでいた手を離した。

いつもいつも、あまりにもあからさますぎないか?

すぐ横にあった足を踏んだ。

「あいたっ! なにするんだよ、ヴォルフラム!」

「ふん」

「な、何怒ってるんだ?」

「グレタもすぐに戻ってくるだろうに、そんなわずかな間もぼくと手をつないでいるのは嫌なのか」

「嫌ってわけじゃないよ! 何も足踏まなくったっていいだろっ」

頬を軽く引っ張られた。

引っ張ったユーリは、そのぼくの顔を見て、笑い出した。

「やったな」

ぼくはユーリの脇腹に手を伸ばしてくすぐった。

「うわ! っははは、やめろ! やめろって!」

ユーリは食卓の周りを回るように走って逃げる。

ぼくは追いかけながら、訊いた。

「嫌なわけじゃないなら、どうしていつもグレタがいなくなった途端に手を離すんだ!?」

「グレタが喜ぶから手をつないでるんだし、それに……」

「それに!? なんだ!?」

ユーリの後ろ襟首を捕まえた。

ユーリは足を止めてこっちを向く。

だが、目はこっちを見ず、横を向いていた。

ユーリの腕を掴んだ。

ユーリはぼそぼそと言った。

「……恥ずかしいじゃん」

恥ずかしい?

もしかして、ぼくがドキドキしてるのがユーリにも伝わって、それが気恥ずかしいのか?

「ケンカしてるの?」

グレタの声がして、二人でそっちを見た。

心配そうな顔で見上げてくる小さい可愛い姿。

ユーリが笑顔を見せた。

「喧嘩なんてしてないよ。でも言うじゃないか、喧嘩するほど仲がいいって。心配しなくても大丈夫」

「そうなの?」

「そう、ほらね」

言いながら、ユーリはぼくの手を取って指を組んだ。

やはり、ひんやりとした手だ。

「何が恥ずかしいんだか……」

ぼくが小さく言った声が、ユーリに聞こえたらしい。

ユーリはぼくの顔を見ると、話し始めた。

「おれ、ヴォルフラムの手を握ったり肩を抱くとき、いつも緊張して冷たい手してるだろ。ヴォルフラムはそんなことないのに、なんだか恥ずかしくて、さ」

緊張……?

ぼくに触れる時にユーリは緊張しているのか。

唖然としたのが思いっきり顔にも出ていたらしい。

ユーリはぼくを見て、赤くした顔を背けてさらにその顔を両手で隠してしまった。

ぼくは、無理やりユーリの顔から引き剥がして変わらず冷たかったその手を、両手で包んで温めてやった。

グレタは終始ぼくらを見て、嬉しそうな顔をしていた。



END

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