ユヴォルユで50のお題2

□46 俺のどこが好き?
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46 俺のどこが好き?






「ヴォルフ…」

どきどきする。

ユーリがぼくの名を呼ぶのが好きだ。

魔王としていろいろな人に気を配るユーリだけど、いや、それ以上にユーリはもともと
八方美人なのだが。

ぼくの名前を呼ぶ瞬間はユーリの意識がぼくに向いている気がして。

「ヴォルフラム」

ユーリがぼくの名を呼ぶのを聞き逃すことはない。

それでもぼくは何でもない顔をしてユーリに返事をする。

「なんだ、ユーリ」

ユーリの漆黒の髪と黒曜石のような瞳には妖しいまでの魅力がある。

その眼で問われては、ぼくは何も嘘はつけないがそれでもつい強がってしまう。

「おれのこと好き?」

「…なんだ、その質問は」

それはベッドの中で二人きりで、いまさら投げかけるような質問か?

「だってさ。おれみたいな普通の高校生が、お前みたいな美少年に好かれるのはさ、ちょっと
不思議だなって」

「まだそんなことを言っているのか、いい加減に自覚しろ。お前は王なんだ、『普通』の人物
ではない」

「じゃあ、ヴォルフはもしおれが魔王じゃなかったら好きにはなってくれなかったのか」

ユーリがぼくの顔を覗き込む。黒の瞳が僅かな光に煌めいた。

どきりとする。

おそらくユーリの艶やかな双黒と麗しい顔立ちは、この想いにとってただの飾りに過ぎない。

そして、もちろん、ユーリが魔王だからという想いでもない。

しかしそれをユーリに言う気にはなれなかった。

だって、ぼくがそんなことで好きになるような俗物だなんて話、あんまりだ。

「歴史にもしもはない」

「歴史って…」

ユーリはため息をついた。

ぼくはお返しに尋ねた。

「じゃあ、ユーリは、ぼくのことが好きなのか?」

ユーリは、一瞬きょとんとした後、微笑んだ。

「…好きだよ」

心臓が、ドクンとはねた。

「すごく、好きだ」

指先に口付けられた。

指先から鼓動の音が伝わってしまわないかとあせった。

「ヴォルフ?」

「…もっと」

ぼくは手をひっこめながらユーリに向かって囁いた。

「もっと呼ぶんだ、ぼくの名前を。ユーリ」

「ヴォルフ」

「ああ」

「ヴォルフラム」

「そうだ…」

「…ヴォルフ、答えて……おれの、どこが好き…?」

「ユーリ…?」

ユーリから安らかな寝息が聞こえはじめた。

「ユーリ…」

ぼくは静かにユーリに布団をかけなおした。

「美しい姿ももちろん好きではあるが…」

ぼくはそっとそっとユーリの髪を撫でながら言う。

「人を信じる、お節介なところとか、出しゃばりなところが好きだ」

囁き声で告げる。

「圧倒的な魔力が好きだ」

ドキドキしながら。

「ぼくは知っているぞ、ぼくに時々見惚れているところが好きだ」

ユーリの顔を覗き込んで、ちゃんと眠っているのを確認して。

「ぼくの名前を呼ぶ声がたまらなく好きだ」

どうか今だけは眠ってて。

「本当に好きなんだ、ユーリ」



END

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