ユヴォルユで50のお題2

□45 おそろい
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45 おそろい






「好きだ」の言葉の代わりに、ずっと一緒にいようと言った。

(当り前だ、という返事が返ってきて、思わず笑った。)

改めてヴォルフラムがおれの婚約者だと、周りのみんなに宣言した。

触れるだけのキスを3回した。

自覚してからも、どんどん好きになった。

これ以上ってもんがあるわけないと思っているのに、更に好きになれるんだからまいる。

いつもいつでもおれはヴォルフラムのことばかり思ってて、でもあいつはどうなんだろう。

おれのこと、おれがいなくても思ってくれてるだろうか。

いないからって、仲がいい奴と飲み明かしたりして忘れてやしないだろうか。







相変わらず、ヴォルフラムはおれの寝室に潜り込んでくる。

おれが『好きだ』って言っているようなものなのはわかってるだろうに、遠慮しない。

襲うよ?

いや、やっぱり初めての時は落ち着いた、お互い納得した雰囲気のあるものにしたいから
必死で我慢するんだけどさ。

「ヴォルフラム」

「なんだ」

その裾がひらひらして捲れやすいネグリジェもお前の寝相ならば遠慮していただきたい。

ああ、言いたいのはそんなんじゃなくって。

「……おれが向こうへ行ってる間って、お前どうして過ごしてるの?」

「いつもと変わらず過ごしてるが?」

「おれがいなくて、お前、おれのこと…」

俺のこと忘れちゃったりしないの、って訊こうとしたけど、やっぱり訊けなかった。

だって、忘れてる、なんて答え返ってきたらどうするんだよ?

ところがヴォルフラムはまっすぐおれの眼を見て言った。

「お前がいない間もぼくはこの部屋で寝ている」

「え?」

「お前が確かにここにいたと思い返しながらこの部屋の風景を見て過ごしている」

「ヴォルフラム…」

「夜中に目が覚めて、隣にお前がいないとひどく落胆するんだ。あまり長い時間空けるな」

おれはヴォルフラムの腕を両手でつかむと、袖を捲りあげて腕の内側の白く柔らかいところに
唇を付けた。

「な、なにをする?!」

「動くなよ。こんなことはじめてやるからうまくできるかわからない」

もちろん、おれはヴォルフラムの肌に唇なんかで触れたのは初めてで、緊張して頭に血が上り
そうだった。

場所が場所のせいか、男のくせに滑らかで柔らかい。

踊りだした鼓動に気付かれていないか、そっとヴォルフラムの顔を見た。

ヴォルフラムは顔を真っ赤にさせて、少し困ったような顔でこちらを見ていて、たぶんその様子
では向こうもだいぶ鼓動は激しくなっているだろう。

多分気付かれない。

おれは目を閉じて、そこをきつく吸った。

「ユ、ユーリ?」

しばらくそうして、ともすれば震えてしまいそうな唇を離して、そこを確認した。

少し赤くなっているだけだ。

「あれ? おかしいな」

再び口をヴォルフラムのそこにつけて吸う。

息が続く限り吸って、離して、見る。

「なにをやっているんだ…?」

「キスマーク、付けようとしてるんだけどな…。おれがいなくなったらその間、ここ見たら
思い出してくれるように…」

「なっ…。……いつもこの部屋で思っていると言っているだろう」

「この部屋以外でも」

「こんなところにつけて、誰かに見られたらどうしてくれるんだ」

「え…でも、自分で見られるところってこういうところだし……他にどこにつけろって言うの」

そう言いながらおれは色っぽく晒されたヴォルフラムの鎖骨を見た。

ヴォルフラムはおれの視線に気付きながらも、出した肩を隠さずにおれに食って掛かった。

「そういうことを言っているんじゃない!」

「……だめだった? こういうの見られたくない相手がいるのか? ヴォルフはおれのものだと思っ
てたけど、おれの勘違いだった?」

「う…」

「ヴォルフ?」

「……勘違いじゃない」

そう言って、うつむいてしまったヴォルフラムが可愛くて、おれは軽くヴォルフラムに口付けた。

もう一度、ヴォルフラムの腕に唇をつけるが、思ったようにいかない。

「うーん……上手くいかないな…」

「へたくそ…貸してみろ」

ヴォルフラムはおれの腕を取って袖を捲って何の躊躇もなく腕の内側に口を付けた。

なんか少し舐められた、と思ったら、ちりっと痛みが走った。

「な、…あた……! 痛い、ヴォルフ」

ヴォルフラムは静かにおれの腕から口を離し、そこを見ていた。

長い金色の睫毛が伏せられておれの腕なんかを真剣な目で見ていて、意外さにどきっとする。

「ついたぞ。見てみろ」

「え」

おれの腕の、さっき痛みがちりっと走った部分に、赤い鬱血の痕があった。

くっきりと形よくついた赤い痕。

「ヴォルフ……上手くない? やったことあんの?」

「書物の知識と、勘だ。…ユーリ?」

「なんだよ」

「続き…付けないのか?」

ヴォルフラムが腕を見せた。

おれはその腕を両手で取る。

「付けるけどさ」

「ぼくがどうしたか覚えてるか? 真似してみるんだな」

確か舐められたのは覚えてる。

……舌を使うってことか?

「あ……付いた…」

「ふふん」

「何笑ってるんだよ」

「おそろいだ」

ヴォルフラムは痕がある自分の腕とおれの腕とを並べて見せた。

おれはきっと離れるとことあるたびにこれを見てはヴォルフラムを思い出してため息をつくん
だろう。

ヴォルフラムもそうなんだろうか。

顔を覗きこむと、ヴォルフラムは自分の腕の痕があるところに軽く唇をつけて、言った。

「この痕が消える前に、帰ってこい、ユーリ。お前がここにいた証がなくなる前に」

「そんなものがなくてもおれがここにいたことは事実だよ」

「しかし、何もないと自分の夢だったような気がして…ユーリがぼくを選んでくれたなんて幸福なこと、
ぼくの単なる妄想だったのではないかと思えてしまって」

おれはヴォルフラムを抱きしめた。

「あんまり言うなよ…。まだキスマーク付けたくなっちゃうだろ。次はこの辺につけてやるからな。
こんなところに口なんか付けたら、理性どっか行っちゃうんだからな」

ベッドで好きな相手を抱きしめている、というシチュエーションにめまいがする。

「好きにすればいいじゃないか」

「誘うなよ。大事にしたいんだ」

渾身の力で何かを振り切るように、最大精一杯の精神力でおれはヴォルフラムから離れた。

そうか、というと、ヴォルフラムはおとなしく布団に入った。

ヴォルフラムは布団から腕を出していて、たまたまさっきおれが残したキスマークがちらりと見えた。

それを見ておれはくっきりと残った自分の方の腕の痕をちょっと眺めると一息ついた。



END

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