ユヴォルユで50のお題2

□43 記念日
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43 記念日







よく怒るしよく笑うし、時には泣くし。

表情が豊かっていうのはこういうやつを言うんだなあって思いながら、おれは
いつもヴォルフラムを見てる。

同じ表情でも違う角度っていうのがあるんだ。

ちょっとそういうの発見するのにコツが要って、難しいんだけどさ。

多分こういう角度ってやつ? 容易に見つけられるのが大人ってやつなんだろうな。

でもおれは未熟なりに必死にいろんなヴォルフラムを見つけて来たつもり。

どうしてそんなに懸命になるかって? 

だって、どの角度から見てもヴォルフラムって魅力的なんだよ。

そもそも怒った表情がいいってどういう素質なんだよって。

「こんなところで何してるんだ? ユーリ」

おれがいたバルコニーにヴォルフラムが顔をのぞかせた。

「ヴォルフラム」

おれが名を呼ぶと、ヴォルフラムは許可をもらったかのように近くに来た。

「春とはいえ、こんな風通しのいいところにのんびりいたのでは、風邪を引くぞ」

「はは、ちょっと考え事してた」

「何か悩みでもあるのか」

「そうじゃないよ」

「ま、まさか…」

「ん?」

「他の男を口説く方法を考えているのではないだろうな?!」

おれは脱力してバルコニーの手すりにもたれかかった。

「お前の想像するおれってどんな色好みなんだよ…?」

「どうなんだ、ユーリ!?」

おれは実はヴォルフラムが根拠ない疑いでこうやっておれを責めてくるのもすごく可愛かったりして。

だって、あまりにヴォルフラムが必死でさ、おれに食い下がってくるんだもん。

この時ってヴォルフラム、ほんとにおれしか見えてないよなあ。

そもそも全く事実無根だしね。

「ヴォルフラムを、だったら口説いてみてもいいかな?」

ヴォルフラムが一瞬で黙り込んだ。

顔をこれ以上ないくらい真っ赤にさせて。

「…く…」

「く?」

「口説けるものなら口説いてみろっ!!」

えっ。

しまった、そうきちゃったか。

おれは口説き方なんて知らない。

なんて言ったらいいのかな。

「ごめん、ヴォルフラム。おれ、口説き方なんてよくわからないんだ。…これで許して」

おれはヴォルフラムの肩に手をかけ、額に軽く唇を付けた。

ヴォルフラムは、あっけにとられた顔をした後、少し微笑んだ。

…それが、ものすごく可愛かった。

ちょっと今までにまだ見たことのない表情だった気がする。

これだけたくさんのヴォルフラムを知っているのに、会えない時は思い出して苦しくなったりする
ほどなのに。

おれは感情をごまかすために、ヴォルフラムから視線を外して遠くの景色を眺めた。

「ヴォルフラム、おれを探しに来たのか?」

「あ! 忘れていた。ギュンターがお前を探していたのだ」

「え? それでお前が代わりにおれを探しに来たのか?」

「何かいけないか? ユーリに会う時間が増える機会だ」

「あははは…。ギュンターは何の用かなあ…」

「今日はユーリがこっちの世界に来て1年経つから夕食は軽いパーティにしようって言っていた」

「ああ、そうだな…」

「ギュンターも細かいな、1年目だなんてよく覚えているものだ」

「うん、1年経つんだよ。ヴォルフラム」

「え?」

おれはヴォルフラムの顔を見ながら言った。

ヴォルフラムのエメラルドの瞳がきょとん、とおれの眼を見た。

「明日、おれとお前が会って1年だ。婚約して1年経つ、記念日」

「ユーリ」

ヴォルフラムは茫然とおれの顔を眺めながらおれの名を呼んだ。

そのあと。

「よく覚えてるな、お前」

呆れたように言い放った。

おれは苦笑した。

でもさ、おれの記憶を鮮明に埋めているのは、そんな細かい記念日なんかよりも、いろいろな
表情のお前の方なんだ。



END

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