ユヴォルユで50のお題2

□42 勘弁して・・・
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42 勘弁して・・・









風呂の後、おれがグレタに本を読んでいると、その部屋にヴォルフラムが入ってきた。

近くに控えていたコンラッドが声をかけた。

「ヴォルフラムも今日はもう風呂に入ってきたのか」

「よくわかったな」

「香りが違う」

ヴォルフラムはコンラッドの言葉にわずかに眉をしかめてこっちに寄ってきた。

ああ、眉をしかめた顔も可愛いなあ。

グレタがヴォルフラムに抱きつきながら言った。

「ヴォルフラム、いい匂い」

「そうか?」

コンラッドは香りをかぎながら言った。

「いい匂いですが…これはあれだな」

「なんだ? コンラート」

「母上の美香蘭」

「「「えーっ?!」」」

グレタが意味が分からずにきょとんとして訊いた。

「びこうらんってなあに?」

コンラッドが説明した。

「その香りを嗅いだ者が好意を持っていればより大胆で情熱的にさせる香料です。
代わりに嫌っていればより険悪になるのですが…魔族にしか効きません」

「うわあ、びやくっていうやつだあ」

意外とグレタは大人だった…。

「美香蘭? なんだか洗髪料がいつもと違うと思った」

ヴォルフラムはのほほんと言いながらおれの方に近付いてきた。

確かに嗅いだことのある香りがふわっと舞って、おれはドキッとした。

「待って、ヴォルフラム。俺とグレタは大丈夫だけど、ギュンターと陛下には美香蘭の
効果が出てしまうのでは」

そう言われてヴォルフラムは戸惑ったように足を止めた。

「私は別にヴォルフラムを特に好きでも嫌いでもありませんから大丈夫です、コンラート」

みんながおれを見た。

「えっ、でも、おれも半分人間だし…?」

ヴォルフラムは立ち止まったままだが言った。

「別に美香蘭が効いたところで何か殺し合いが始まるわけでもあるまい?」

「よく言いますね、ヴォルフラム。陛下と初対面の時に美香蘭に惑わされて陛下に決闘を
申し込んだのはあなたでしょう」

「そうだったか」

「ダイジョーブだよ、ユーリはヴォルフラムを嫌いじゃないもん、大好きだもん」

コンラッドはグレタの頭を撫でながら言った。

「その通りですね」

だだだ大好きってお前たち…!

「いや、おれ半分人間だから効かないんじゃないのかなー、なんて」

「そうなんですか? じゃあ心配いりませんね」

「本当かー? ユーリ」

からかうような声を上げて、ヴォルフラムが突然後ろから座ってるおれの首に腕を絡めてきた。

近い近い近い顔が近いっ!!!

心臓が蕩けそうなむちゃくちゃいい匂いがする。

もう脳の芯の方がぼうっと麻痺しちゃって、この香りって、そうとうやばい薬なんじゃないだろうか。

「えーと、ではグレタ。そろそろ寝ましょうか。お部屋までお送りしますよ」

コンラッドがグレタに笑顔で話しかけた。

「はあい。じゃあ、おやすみなさーい」

グレタに頬にキスしてもらっているヴォルフラムを見ていた。

可愛いのはいつものことだけど、今日はさらに色っぽさも目立ってる気がする。

この後二人きりで寝るのか?!

おれ、どうなっちゃうんだよ、ちょっと正気でいられる自信ないぞ?!

「あの、グレタ…? 今日はおとーさんたちと一緒に寝ない?」

「グレタ、もうすぐ11歳になるんだし、もうおとーさまとは寝ないの」

ああ……とうとうこの時が来てしまったか…。

グレタはおれの頬にもキスを残すと、コンラッドと一緒に部屋を出て行った。

「ヴォルフラム、陛下からもっと離れて」

ギュンターが厳しい声で言った。

「え? 効かないんだろ? なあ、ユーリ」

「あははは…」

「ユーリ?」

「効く効かないが持っている魔力に比例するのなら、陛下が一番美香蘭の効き目に弱いはずですよ」

「なるほど。ではちょうどいい、ユーリ、決着をつけるぞ。寝室へ行こう」

「はあっ?!」

「ヴォルフラムー!!」

「うるさいぞ、ギュンター!」

「媚薬で惑わしておいて何が決着ですか! それにいつも言ってますが結婚前の相手の寝所に
出入りするんじゃありません!」

「いまさらだろ」

ギュンターがギャーギャーと喚いている。

「決着というのは冗談だから安心しろ。二人でゆっくり話がしたいんだ。ほら、ユーリ、行くぞ」

おれは腕を軽く引かれて、そのままヴォルフラムについて行った。

相変わらず甘い香りがおれを誘う。

「あの、ヴォルフラム?」

「なんだ?」

「やっぱり一緒に寝るの…?」

ヴォルフラムはおれの肩に手を置いて顔を覗き込むようにして尋ねてきた。

「いやなのか?」

だから、顔が近いって…!

「いいいいやって言うか、自信がないっていうか」

寝室にたどり着いて、ベッドに乗って話す。

「自信?」

「えーと? 紳士でいられる自信が」

「ユーリって紳士だったのか」

「う」

ひどいいいようだな。

おれが心配してるのは、お前の身なのに。

このふわふわと漂う蕩けるようないい香りに惑わされておれがオオカミさんになって
しまわないようにとさっきから必死にいろいろ抵抗手段を考えてたのに。

もう知らないぞ?!

「気遣いは無用だぞ」

「え」

「遠慮してるのなら、こっちから行かせてもらうからな」

押し倒された。

少し潤みがちの眼で見上げられた。

「えええ?」

ヴォルフラム、いつにもまして強引じゃないか?!

ちょっと、こういう状況ってどうなんですか。

つい乱暴になっちゃいそうで手を出すのはほんとは避けたいんですけど。

だからといって手を出されるのもどうかと…。

今度普通の時にちゃんと手を出すから、今日は勘弁してください。







「ねえ、コンラッド」

「なんです? グレタ」

「確かにヴォルフ、すごくいい香りしてたけど、ユーリもちょこっとだけど同じ香りしてたよね?」

「おや、よく気付きましたね」

「うん、ツェリ様と同じ匂いだあ、と思って」

「また母上がいたずらでもしたのかな…?」

「おやすみなさい、コンラッド」

「おやすみ、グレタ」



END

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