ユヴォルユで50のお題2

□41 黒
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41 黒








「ああ、これ、やるよ。ヴォルフ」

まるで余った茶菓子を差し出すかのような気軽さでユーリは言い、濡れた上衣の衣嚢(ポケット)
から取り出したそれは、首飾りだった。

漆黒の宝石の飾りが下がっている、銀色の鎖。

「く、黒い宝石などぼくが身につけられるわけがないだろう!? 恐れ多い……!」

「だからさ、服の下につけちゃえば誰にもわからないじゃん?」

「そ、そういう問題じゃない」

「いいから。おれが許すっ。どうせとんでもない安物なんだぜ、それ。普通の男子高生の
小遣いで買えるくらいなんだから王子様には不釣り合いだ」

「……鎖はともかく、宝石はそうは見えないが」

「こっちでは黒いものは珍しいもんな。じゃ、着けてやるよ」

冗談ぽくユーリはそう言うと、ぼくの首に両手を回した。

肌と肌が触れてドキッとする。

「うーん、なかなかつかないな……」

さらにユーリが近づいてきて、激しくなった鼓動が止まらない。

いっそ、別にこのままつかないままでもいい。

「ついた。……と、やっぱヴォルフには華やかな色の方が似合いそうだな」

「どうしてこれを?」

「だってヴォルフ、黒が好きだろ?」

「……」

「知ってるぞ、おれ。夜中におれの髪弄って遊んでるだろ?」

馬鹿め。

ぼくが好きなのは黒ではなくて、その持ち主だ。

ぼくは賜ったその黒い宝石を見下ろして、指で撫でた。

ユーリの漆黒の髪や瞳のような輝きが目に優しい。

鎖が長く、寝間着の時も宝石が隠せそうで助かる、そう呟くと、ユーリは満足そうに微笑んだ。





結局、ユーリが向こうに行っている間は、昼間は首には付けずに衣嚢の中にしまっておき、
夜だけ首に下げることにした。

やはり黒を身につけるのは恐れ多い。

「オニキスって言う石なんだ。黒瑪瑙(くろめのう)って言った方がわかりやすいかな」

心身のバランスを整え、忍耐力を強めて成功を助ける効果があるんだ、と言っていた。

そんな助けなどなくても十分だと返したら、ただのお守りだよと笑われた。

ユーリはもしかして計算していたのか。

あいつがいない時もこの石を見ては回顧する自分がいる。

広すぎる寝台で一人、見つめる。

月光に煌めく黒い宝石は、眠るあいつの髪によく似ている。

胸の奥がぐっと締め付けられる。

しかし、思い返してもいつもほど寂しさを感じない。

眺めているうちにいつの間にか眠りについていたりする。

上手く出来すぎだ。

いや……あいつに限って計算なぞするわけはないか……?







「そしてね、この石には『夫婦の幸福と安定』を守る効果もあるんだ」

そう言ったユーリは、現実のものか、夢の中の幻か。



END

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