ユヴォ連載駄文

□365日
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1話目…女だったら




ここ眞魔国は自然が豊か、空気がきれいで景色もいい。

もちろん国民もいい人たちばかりに決まってる。

おれがこの国の王だということは、ほんとに誇りに思ってる。

渋谷有利、16歳。17歳になるまであともう半年を切った。

最近おれの魔王業も、ほんの少しくらいは様になってきたんじゃないかな、なんて思ってる。

今日は午後に謁見があったので、午前に今日の分の書類を全部片付けた。

どうだ! と胸を張ったらギュンターだけは褒めてくれた。

うっ、まだまだかな…。

「自信を持たれませ、陛下。そうです、もうすぐ陛下の成人の儀も執り行われるではないですか。
式典が終わればもう陛下もご成人ですよ。どうぞ、堂々と」

成人。日本にいたらまだまだ先の行事におれはピンと来ずに頭を掻いた。

改めて、ここにいるみんながおれより想像を絶するほど年上なんだということも実感する。

普段、同年のような気がしてしまってるヴォルフラムでさえ見た目はともかく、両親より、
いや、祖父さん祖母さんより年上だ。

「なんだ? ユーリ」

お、思わずヴォルフラムを凝視してしまった。

「いや、なんでもないよ」

ヴォルフラムから目を逸らしておれはぼんやりする。

おれがうっかり婚約者にしてしまったヴォルフラムは、もうこんな綺麗な子は見たこと
なかったってくらいそれこそ天使の容貌で、しかし、男だ。

そう、男なんだよなあ…。

何度も一緒に風呂に入ったから知っている。こいつにはおれと同じものがまぎれもなくついていた。

これが女だったら何の文句もないどころか、これ以上ないくらい自分の運命を讃えて喜ぶのに。

うん、こんなのが彼女だったら毎日が天国になるに違いない。

滑らかな白皙に眩い蜂蜜色の柔らかな髪、湖底を思わせるエメラルドグリーンの瞳、美しい母親に
よく似た整った顔立ち、剣を握るのが信じられないほど綺麗な手も長い指をしていて、まだ細い
肩は成長途中なのが触れると分かる。華奢な体も腰の位置が高くて脚の長さがおれなんかとは全然
違う。寝顔なんか、本当に綺麗でぼんやりと見とれることもあるほどだ。

容姿はこれ以上ないくらい、それを生き生きと動かす感情豊かな激しやすいところもすごく魅力的だ。
声だって可愛い。ピンクのネグリジェだって似合う。

なんで男だったんだろう。

「陛下」

つい考え事していたところに声をかけられた。

「えっ? なんだっけ?」

「謁見のお時間です」

「あ、はい」

謁見は午後のお茶の時間まで続いた。

短い時間だったがこういうのは肩がこる。

「うーん…」

部屋を移動しながら、おれは肩を回した。

ギュンターが言った。

「肩をお揉みしましょうか、陛下」

「いいよ、大丈夫」

「まったく、ユーリ、聞いているのか?!」

ヴォルフラムがずっと小言を言っている。

「聞いてるよ、ヴォルフ」

「お前は誰にでも愛想よくしすぎだ! この尻軽!」

最後に謁見した若奥さんにおれが鼻の下を伸ばしたとかで、ヴォルフラムはさっきから怒っている。

テーブルに着くと、ヴォルフラムはおれの隣に座り、小言を続ける。

「謁見に来た者にまで愛想を撒いてどうするこの八方美人が! ちょっと美人だったからって鼻の
下を伸ばして、王としての威厳のかけらもない。情けないとは思わないのか?」

「まあまあ、ヴォルフラム」

コンラッドがヴォルフラムに声をかけるが、ヴォルフラムは全く聞かず、おれも気にせず話を聞き
ながらヴォルフラムの顔を見ていた。

おれは一口お茶を飲んでカップをソーサーに置いた。

ヴォルフラムはせっかく入ったお茶にも手を付けずにおれに怒っている。

謁見に来た若奥さん、確かに美人だったかもしれないけど、とてもじゃないけどヴォルフラムには
足元にも及ばなかった。

今、おれにいろいろ言って怒ってる顔はなおさら…以前ツェリ様が言っていたように、ヴォルフラム
の怒った顔ってのは格別に可愛い。

怒られるっていうのは、ともすれば嫌われるかもっていう怖さが伴うこともあるけど、今ヴォルフラム
が怒ってるのはおれが他の人に愛想を撒いたって言う嫉妬によるものだ。

これ以上の愛おしい存在があるだろうか。

「何をへらへら笑っている、ユーリ!」

「ああ、ごめん」

「ごめんじゃない! この浮気者が! 思い出してまでもにやけるな!」

おれがにやけてたのは、若奥さんのことじゃなくて、ヴォルフラムのこと思ってだったんだけどな。

「違うよ」

「何が違うんだ?!」

ヴォルフラムは相変わらず怒っている。

あまりに綺麗だから、つい触れてしまった。

ヴォルフラムの柔らかそうな両頬に、おれは両手でそっと包むように。

「…ユーリ?」

ヴォルフラムはふと、きょとんとした顔をした。

おれは一瞬、自分が動いたことにも気が付かずにいた。

「陛下?!」

「ユーリ!」

ギュンターやコンラッドがなんだか慌てた様子で声を上げた。

「……え…?!」

両手の中のヴォルフラムにも声を出されて、おれははっとした。

「あ…」

言葉にならない何かを言いかけておれは慌てて口を閉じて、至近距離のヴォルフラムを見た。

あれ…おれ今、ヴォルフラムに……。



……ちゅーしちゃった!!
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