ユヴォルで10のお題

□9・会いたい
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会いたい





ヴォルフラムはユーリのいないベッドに静かに横たわる。

いつまでたっても慣れない。

一人で眠ることは、ユーリと二人で眠ることより多いというのに、まるでそれが
間違いであるかのようだ。

ヴォルフはベッド上をころころと転がって広さを確かめる。


そして、ため息をついた。

次はいつ会えるのだろう。

今頃ユーリは何をしているのだろう。

…このベッドはひとりで眠るには広すぎるんだ。

早く帰ってこい。





ユーリはシングルベッドにもぐりこんで、ため息をついた。

吐いたため息が震える。

何だろう、こういうのを『セツナイ』って言うんだろうか。

…ヴォルフが気軽に人のベッドに潜り込んできたりするから。

寝付くまでくすぐりあったりしてじゃれあったり、何気ない話をしたり。

夜中目が覚めた時に寝顔を眺めたりするのに慣れてしまっているんだ。

どうして16歳で、一人寝が寂しくならなきゃいけないんだ、こういうのは幼児か、逆に
もっと大人が寂しさを感じるものじゃないのか?

早く向こうに行きたいと思うのは間違いなのかな。





ユーリはいつの間にか眠っていて、目が覚めると明け方の5時前だった。

時計を見てがっくりして再び目を閉じたが、またため息が出てきて眠れそうになかった。

いてもたってもいられなくなった。

もうおふくろに怒られてもいい、とりあえず風呂に入ろうと思った。

湯は洗濯に使うために残してあるので沸かすだけだ。

アラームが鳴って湯加減がちょうどよくなったことを知らせると、ユーリは体を洗って
湯船に入った。







明け方…いやまだ日が出る前にヴォルフラムは目が覚めた。

こんなことは何年に一度あるか、という程度で、寝なおそうと思っても寝付けそうには
なかった。

今は無理だと分かっているのに、なんだか無性にユーリに会いたかった。

その思いが大きくて余計に目が冴えた。

ヴォルフラムは以前、向こうの世界に帰りたがったユーリが、魔王専用プライベートバスに
服を着たまま飛び込んだことを思い出した。

ヴォルフは魔王用の風呂へと走った。

そこは主が不在なのにもかかわらず、湯が張られていた。

いつユーリが戻ってくるかわからないからだ。

ゆっくりと浴槽に歩み寄り、一つ深呼吸をし、そのまま湯の中に足を沈めた。

すぐ底があり、湯は膝ほどまでしかないはずだったが、実際は底はなく体が湯の中に沈んでいき、
どこにあるのかわからない底に吸い込まれていった。







自分が浸かっている風呂の水面が揺れて、ユーリは一瞬身を固くした。

ネグリジェを着たままずぶ濡れのヴォルフラムが酸素を求めて水面上に顔を出した。

ヴォルフはユーリの顔が目の前にあるのを見て一瞬目を見開き、ほんの少し頬を赤くした。

ユーリはヴォルフがすぐ手をのばせば届く場所にいるのを見て、抱きついた。

「会いたかったよ、ヴォルフ」

「……ぼくもだ」







「で、どうしてヴォルフこっちに来ちゃったんだろう?」

村田はユーリとヴォルフを眺め、缶コーヒーを飲みながら言った。

「んー?二人がちょうど同時にお互いに会いたいって思ったんじゃないかなあ?強い願い
と渋谷の魔力が作用したんじゃないかな」

「え、そうなの?」

「さあ、よくわからないけど」

「村田…」

「無事に帰れるといいね」

「うん…はぐれないよう気を付ける」

村田は空を仰ぎながら呟いた。

「それにしても渋谷はいいなあ、会いたいって願って、会えるなんて」

「なんか言ったか?」

「いや?なんでもないよ」



END

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