ユヴォルで10のお題

□6・ずっと好きだった
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6・ずっと好きだった





ヴォルフラムが矢に当たって倒れて、でも助かったあのとき、おれは初めてまだ何も
言ってなかったことを後悔していた。

お前が好きなんだ、と。

伝えてなかったことを後悔したんだ。

相手の気持ちも考えずに、ただ伝えたいのはおれの独りよがりだろうか。





「はあ、告白ってのは、好きな人からされれば嬉しくて、嫌いな人からされれば迷惑
ってやつじゃないんですかあ?」

ヨザックは酒を飲みながら言った。

おれはホットミルクの入ったカップを揺らしながら呟いた。

「め、迷惑…」

「大丈夫ですって、陛下の容姿なら、迷惑だと思う女はいませんぜ」

そうは言うが好みは人それぞれだ。

それに相手は女じゃない。

「陛下、言う前から気を落としてどうするんですか。もっと前向きに」

「べ、別に気落ちしてるわけじゃないけど」

「でも、そういうのは言ったもん勝ちですよ。告白されてから気になりはじめるケースも
ありますしね」

「へえ…? そういうもんかなあ」

「意外な返事ですね。陛下はその最たる例だと思ってたんですが」

「んん?」

「ヴォルフラム閣下に言い寄られなかったら特に興味持たなかったでしょう?」

「あははは、言い寄るっていうか、一途だよね、ヴォルフは」

「閣下に告白、って話ですか?」

「まあ…」

「そりゃ迷惑なわけないですよ。素直じゃないお方なんで表面上はツンケンするかも
しれませんがね。そもそもフリーの相手に告白するのに何の気兼ねもいりませんって」

「…そっか。…待って、ヴォルフはフリー? 婚約者がいるじゃないか」

「その当の婚約者からの告白ならなおさら歓迎されるのでは」

「それもそうだね、あはは」

「…どうして俺に相談なんて?」

「ヨザックなら経験豊かそうだし…コンラッドにはこんなこと訊けないし」

「陛下のお役に立てたらグリ江嬉しい〜」

「決めた」

次会ったら言おう。

「何を決めたんですか、陛下?」

「告白」

ヨザックの顔が一気にからかう顔になった。

言うんじゃなかった。




そして次会ったら、と思っていたら、その次会ったのがいきなり斬り合いなんて
あんまりだ。

おれはヴォルフにけがをさせて、しかも近寄るなと言われ。

しかし寝る場所は同じ部屋だった。

立てたテーブルを隔てた向こうでまだ眠っていないヴォルフラムが動く気配がする。

おれは身を起こしてテーブルの向こう側を覗き込んだ。

目を閉じているヴォルフの横顔が見えた。

撃たれた時のヴォルフの顔と重なる。

残酷なことにおれたちがこの後また一緒に居られる保証はない。

今言わなきゃ。

「ヴォルフ」

ヴォルフが目を開けたのが見えた。

こちらを向いた。

「どうした、ユーリ」

「話があるんだ」

「なんだ?」

「できるだけでいいからこっちに来て。話しかしないから」

「ぼくに触れないか?魔術も使うなよ?」

「うん、約束する」

ヴォルフはゆっくりおれの方へ寄ってきた。





言うのが遅くなってごめんって言おう。

男同士だとかごちゃごちゃ言っててごめんって言おう。

もうとっくに、ずっと好きだったって言おう。




言うのが遅すぎるって、怒られるだろうか?

いつもみたいにへなちょこユーリ、って怒るだろうか。



END

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