ユヴォルで10のお題

□5・わがまま
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5・わがまま








どうもぼくは昔からわがままだと言われているらしい。

昔から、というのはよくわからないが、最近わがままになったのは自覚できる。

だって、何度言ったってとうてい足りないんだ。

「好きだ」

ユーリが。

ユーリを愛してる。

たとえ100万回言ってみたってそれは足りなくって。

いつも気になっているのはユーリがその時笑顔でいるのかどうかってことで、それを
知りたくて知りたくて、傍に居たくて。

「ヴォルフ」

少年らしさが残る声がかかって、ぼくはどきりとした。

振りかえって声の主を呼ぶ。

「ユーリ」

「…独り言?」

聞かれていたらしい。

「そうだ。独り言だ。ちょっと考え事をしていたんだ」

「どんな?」

「何度言っても足りないほどの想いは、どうしたらすっきりするのか、とか? いつも
傍にいたいとか…」

「ふうん…。でも言わないじゃないか、ヴォルフ。言ったらちょっとすっきりするかも」

「お前はこの気持ちがどれほどか知らないからそんなことが気楽に言えるんだ」

ユーリは、特別だ。

植物が太陽の光を求めるように、また、水の潤いを求めるようにぼくはごく当たり前に
そして強烈にユーリを欲している。

「そんなこと言われても…そう言うのなら、どれほどか言ってみろよ」

「言葉にできないほど好きなんだ。言えるものか」

「ヴォルフ」

「あるいは、どれだけ言っても足りないほど、か。日が暮れるまで言って見せようか」

「ヴォルフ」

ユーリがぼくの名を呼びながら嬉しそうに微笑んで、ぼくは自分の鼓動が跳ねる音を聞いた。

「な、なんだ」

「そう言ってもらっただけでうれしい」

「ささやかな奴…お前も曲がりなりにも王ならもっと貪欲になってみるとかだな」

「え、おれ、ヴォルフが欲しいって時点でもう十分贅沢な気がするけどな」

ぼくが欲しい、と言われてまたどきりとした。

ユーリと一緒にいると心臓に悪いのではないかとときどき思う。

ああ、でもユーリの言う『贅沢』という気持ちはわからなくもない。

ぼくだって同じようなことを少しは思ってる。

ぼくが好きになったのは、容姿端麗、双黒の、皆に愛されている魔王。

この相手が欲しいなんて本来なら相当に高等な人物でないと釣り合わないのかもしれない。

でもここがぼくがわがままって言われるゆえんかな。

問題は釣り合う、釣り合わないじゃないんだ。

ああ、もう、どれだけわがままなんだって怒られてもいい。

ぼくはもうユーリさえいたら他はもう何もいらないんだ。



END

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