ユヴォルで10のお題

□3・エメラルド
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エメラルド






もともとおれは絵をかくのは苦手だけど。

しみじみ、絵にも描けない美しさってのはこういうのを言うんだなと。

間近でヴォルフラムの碧の瞳を見ているとそう思う。

生後半年から日本みたいな黒い目がほとんどの地域で育ったから余計にそう思うのかな。

その色合いはおふくろが入学式や卒業式やら特別な行事の時だけに出してくる余所行き用
の指輪の宝石に似てる。

でも、ヴォルフラムの一番いいところって飾っておきたいような綺麗さじゃなくて、すぐ
熱くなるって言うか豊かな表情って言うか。

例えばツェリさまがヴォルフラムの一番かわいい顔が怒った顔だって言うのが今ではすごく
よくわかるんだよなあ。

………おれってメンクイだったっけ?



確かに怒った顔が一番可愛いというのはよくわかるけど、おれは怒られるのはちょっと嫌
だし、一番お気に入りなのは朝、ヴォルフラムを起こす時だ。

気を付けないと拳が飛んできたり蹴られたりするけど。

起こす前は天使の寝顔。

名を呼んで体を揺さぶって起こしにかかり、蜂蜜色の睫毛が開くとまだ眠そうな碧の瞳が
覗く。

何度か瞼が重くなってその瞳を隠してしまったりして、やり取りを繰り返してヴォルフラム
の瞳はすっきりと意思を持った輝きを取り戻す。

そのギャップにはじめは驚いたもんだ。

可愛さに気付いた最近ではこいつを起こすのはおれの仕事とばかりに楽しみにしてるけど。





今となっては、一番見ておきたかった顔がある。

泣き顔だ。

あのときは、胸が痛くてとても振り返ってヴォルフラムの顔を見ることはできなかった
けれど…

過ぎた過去となった今にして思えばさてどれほど綺麗な顔だっただろうと思うんだ。



「ユーリ、どうした。ぼんやりとこちらを見て」

「えっ、いやいや、なんでもないよ」

ここでバカ正直に泣かせてみたいなんて言ったら、別の意味に捉えられてたまたま後ろに
いるキミのお兄さんズに半殺しにされるに違いない。

ヴォルフラムはおれに更に近付いて、おれの顔を覗き込んだ。

息がかかりそうなほど近くで、こぼれそうな碧の瞳がおれを見ている。

………おれってメンクイだったっけ?

ドキドキしているのがヴォルフラムにばれませんように、と祈りながら考えた。

いや違う。

だって、他に美形も美女もいくらでも見てきたけど、こんなドキドキするのはヴォルフラム
にだけなんだ。

ドキドキしながらヴォルフラムに笑ってみせると、碧の瞳は微笑んでくれた。



END

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