ユヴォ連載駄文

□恋すると
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3話・表情



式典の最中にヴォルフラムに見蕩れてるわけにはいかない。

考えて、式典が始まる前までにヴォルフラムを見慣れておくことにした。

誰に何を言われようと、頑張って式典までにこれに慣れるんだ!

それにしても見れば見るほど、綺麗だよな……。

美人には三日で飽きるとか言うけど、あれ嘘だろ。

穴が開くんじゃないかってほど見つめていたら、さすがにヴォルフラムが不思議そうに
訊いてきた。

「さっきからどうしてぼくの方ばかり見ているんだ、ユーリ」

「……。大事な式典で失敗しないためなんだ、黙って見させろ、ヴォルフ」

これ以上ないほど真剣に答えた。

「……よくわからないが、真面目な話なんだな……?」

「うん」

「わかった」

もちろん別に今までなかったほど近距離なわけじゃないが、これだけの近い距離で見ても、
ヴォルフの綺麗さには全く隙がない。

おれに協力してくれるつもりなのか、ヴォルフラムもこちらをじっと見ている。

「何を陛下と見つめあっているんですか、ヴォルフラム!! 恐れ多い!」

ギュンターが割り込んできた。

ギュンターに腕をひかれたヴォルフラムが喚き返す。

「邪魔をするな! ギュンター!」

ハッと現実に引き戻されたような気分でおれはふと部屋の中を見渡し、そのあと自分の
腕時計を見た。

まだ時間はある。

コンラッドが肩に手をかけてきた。

「そんなに今から気を張っていちゃ、本番が持ちませんよ?」

「コンラッド、でも……」

コンラッドは耳打ちしてきた。

「大丈夫ですよ、ヴォルフは近い距離ですがあなたの隣に立ちます。正面だけを見ていれば
ヴォルフはあなたの視界に入りません」

それは全てを見透かすような口調で、おれは苦笑した。

「うん……でもさ、気持ちの問題かな」

「そうですか」

また、今はギュンターと口論しているヴォルフラムに視線を移した。

うん、怒ってても格別に綺麗だ。

一体なんだろう、今日は本当に特別だよな。

礼服がよく似合ってるからそう見えるのかな……。

そして、時間が経ち式典まであと少しって頃になって、おれはふと思った。

なんかヴォルフラム、さっきと比べて表情がちょっと硬くなってる……。

いつもなら全く気付かない程度だけど、今日はずっと顔を見てるからわかる。

「あ……あの、ごめん、ヴォルフ……。さすがにおれ、見つめすぎたよな……」

「え? 何の話だ?」

「気に障ったんだろ? さっきと顔が違うもん」

「あ……いや、そんなわけがあるか。そんなにコロコロと顔は変わるものじゃない」

「そういうんじゃなくって! あ……とにかくごめんって」

バカなことに、おれは謝りながらも相変わらずヴォルフラムを見ている。

「……たとえぼくの顔がどうなっていようと、ユーリのせいじゃない。気にするな」

「じゃあ、どうしたんだよ」

「さっきユーリを見ていたら……つくづく本当に稀有な美しさの王だなと、思ったんだ」

「はあ!? 何言ってんだ、お前」

その完璧な形の唇からそんなことを言われるなんて笑い話以外の何物でもないだろう。

「ぼくがどう思おうと勝手だろう! ……そしてぼくはこの王の婚約者なのだと……少し
浸っていた」

そう呟くと、ヴォルフラムはそのエメラルドの瞳を飾る長い金色の睫毛を伏せた。

浸ってたって言うけど、あまり明るい表情じゃない。

ふと、昨晩にヴォルフラムが寝付く前に言った一言が脳裏によみがえった。

『……ユーリの婚約者として国民の前に姿を出すのは明日が初めてなんだ』

あれ……もしかして、ヴォルフラム緊張してる……?

もしかして、おれの婚約者って国民が認めてるかどうか不安になってるとか?

でも身分的にはヴォルフラムは理想的だろ。

おれにはよく理解できない眞魔国の美的感覚からしたら、何か不安を感じる要素があるのか
も知れないけど、おれは王の婚約者とか決めるのは美しさとかあんまり関係ないと思うし。

まあ……おれ個人の好みとかでは結構おれメンクイだけどさ、それで言ったらヴォルフラムは
もったいなくてびびっちゃうほど美人だし。

ああ、とりあえずヴォルフラムに何か言ってあげなきゃ。

「ヴォルフ、ちょっとこっち来いよ」

ヴォルフラムの手首を取って、誰もいない隣の部屋まで連れだした。

「どうした? ユーリ」

ええと、何言ったらいいんだ。

言葉を探してると、ちょうど今自分がヴォルフラムの手首を握っていることに気付く。

気恥ずかしくて、手の方を握れなかったんだよな。

さっきこの手はおれの手をしっかり握ってくれたって言うのに。

ゆっくり息を吐いて、覚悟を決めてヴォルフラムの手を握った。

やっぱり胸がバクンバクン鳴ってる。

「ユーリ?」

「さっき、ヴォルフ言ってくれたよな。おれにはお前がついてるって!」

思い出したように、ヴォルフラムはおれの手を握り返してきた。

「ああ、ついてるぞ! 辛気臭い顔を見せてすまなかった。ぼくは大丈夫だから、
ユーリは大船に乗ったつもりでいろ!」

ヴォルフラムは瞳の輝きを強くして、おれの眼を見てしっかりと言った。

ああ、今日は綺麗だと思ってたけど、その中でも今が一番綺麗だ。

「あのさ。でも、お前にもおれがついてるよ」

「え……」

びっくりしたように開いた瞳を睨みつけるように見て、おれはもう一度言った。

「お前にもおれがついてる!」

「……ああ」

ヴォルフラムが微笑った。

驚いた。

これ以上はないだろうって思ったばかりなのに、一体本当にこいつはどこまで綺麗になる
んだ。

隣室から大きな声が飛んできた。

「陛下、ヴォルフラム! そろそろ時間ですよ、出てきてください!」

「ああ、今行く!」

ヴォルフラムが返事をして、部屋の扉を開けようとした。

その腕を押さえて、止めた。

「あの……ヴォルフ」

「え……なんだ?」

なぜか、今しか言えない気がしたんだ。

まるでひそひそ話のように、おれは小さな声で囁きかけた。

「綺麗だよ、ヴォルフラム」

完全に動きを止めてしまったヴォルフラムの顔を直視できなくて、その肩に手をかけて扉を
開け部屋を出た。

「ヴォルフラム、どうしたんだ、そんな顔をして」

コンラッドの言葉に、今ヴォルフラムがどんな顔をしているか気になったけど、やっぱり
振り向けなかった。



『4話・白い花束』に続く。
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