HP長編
□純血の君
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純血の君
「フリーモント」
「なんだ?気が変わったか?」
名を呼ばれた彼はいつまでも少年の心を忘れていない。
その瞳はいつも楽しそうに揺れている。
それ故にあのような発明品で財を為せたのだろうが。
「いや、マルフォイ家の息子には会ったか?」
「マルフォイ家の息子?ルシウスのことか?あいつにはお前の姪がいただろう?」
ほら、と彼の指さす方向には容姿の整ったプラチナブロンドの少年が、自分の姪にくるくるとターンをしている姿があった。
美しく踊るその姿はまるで蝶のように軽やかだ。
その姿にパートナーである少年は夢中のようで、やはり彼を姪の婚約者にしたのは正解だったと、改めて思った。
「ルシウスではない。その下にもう一人いるのだ。見てないか?」
「なんだ、そうなのか?知らなかったな。暫くイギリスから離れていたからな。」
「そうか。」
「その様子じゃ、姫君には彼をと考えているんだな。」
「そうではない、と言いたいが。調べたところ中々に良さそうな少年でな。会えるものなら会って話がしたかったのだ。」
ルシウスに尋ねてみようかと思ったが、彼はまだエスコート中である。
そこに入っていくなど無粋な真似がどうして出来ようか。
だが、なんせ幼い彼ら相手の夜会だ。
そろそろ時間が迫ってきている。
仕方ない、気は引けるが声をかけるだけかけてみるか、とオリオンは持っていたグラスをウェーターに渡した。
「オリオン様」
後ろから声をかけてきた紳士にオリオンは、タイミングが良いなと口の端を上げた。
「アブラクサスか、丁度いい。聞きたいことがある。」
アブラクサスと呼ばれたルシウスと容姿の似たところのある紳士は、軽く頭を垂れたまま答えた。
相変わらず律儀な男だな、と頭の隅で思いながらオリオンは本題に入った。
「は。なんでございましょう?」
「君の次男は今日この場にいるか?」
「ドラコですか?はい、おりますが・・・ドラコが何か?」
「いや、少し会って話してみたくてな。」
話の内容に意外そうに瞳を丸めて答えた彼に、本当の狙いを知ったらこの男はどんな顔をするのだろうかと、二人の会話を聞いていたフリーモントは思った。
まさか自分の息子がブラック家当主の令嬢の婚約者候補になっているとは露ほどにも思っていないだろう。
オリオンの思惑を余所にアブラクサスは心当たりのない内容に、少しばかり顔を青くしてオリオンに尋ねた。
「息子が何か、オリオン様に無礼なことを・・・。」
「そうではないよ、アブラクサス。まぁ、そう深く考えずに彼と話させてくれないか?」
怯えるアブラクサスに柔らかい笑みを浮かべてオリオンは言った。
整った容姿のオリオンの笑みはこの世のモノとは思えないほど美しいが、それにはやや冷たさが含まれていて、有無を言わさぬ絶対的なものがあった。
それに更に怯んだアブラクサスは深々と頭を垂れた。
「純血の君。貴方がそう申されるなら、私どもにはそれを拒むことなど出来ませぬ。」
「そうか。では、頼むよ。彼は何処に?」
「私めが、すぐに連れてまいります。では、暫し失礼を・・・。」
逃げるように去って行ったアブラクサスをみて、フリーモントは面倒そうに息を吐いた。
「“純血の君”か。相変わらず古風で律儀で、つまらん男だな。」
ブラック家直系のオリオンに対してこう呼ばれることは珍しくは無い。
昔からの名家でブラック家を崇拝している家の者なら誰だってオリオンのことをそう呼ぶ。
オリオンは否定をする気も無いし、使えるものは使う質だ。
特に気に留めていない。
つまり、フリーモントのように己に対して接してくる者の方が珍しいのだ。
「私の前でそんな事を言えるのはお前ぐらいだ。」
「お前がそんな神々しく見えたことが私にはないのでなぁ。」
相も変わらず遠慮のない無礼な言い草だが、まぁ良い。
これで漸く彼に会えるのだから。
さてさて、どんな少年だろうか。
我が娘に相応しい器量を備えているだろうか。
・・・というか、娘に気に入られるような器量を備えているかが目下の問題だ。
調べた内容では知りえぬ面を探るべくオリオンはただその時を待った。
人物設定
アブラクサス・マルフォイ
聖28−族。
オリオンを純血の君と崇拝する者の一人。
古風な性格で、規律や血を重んじる。
フリーモント曰く「つまらん奴」。