HP長編

□紳士の夜会
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紳士の夜会




色鮮やかなイブニングドレスがくるくると舞う。
少女や少年たちが楽しそうにワルツやタンゴを踊っている。
そんな微笑ましく可愛い姿を大人たちはバルコニーへと続くドアの近くの壁に寄りかかりながら見守っていた。
オリオン・ブラックもその一人で今日は長子である息子の付き添いとしてきていた。


「オリオン、君ご自慢のブラック家が姫君はどうした?そろそろお目見えしても可笑しくは無い年だろう?」


馴れ馴れしく近づいてきた紳士にオリオンは、す・・と目を向ける。


「我が姫君はこういう場が特に好かないらしくてな。今日も今日とて一悶着あった後なのだ。」
「ほー、それでシリウスはレディも連れずに父親と来たってわけか。」
「あぁ。シリウスだけは欠席させる訳にはいかんのでな。」
「ははは、流石のオリオンも娘には敵わんか。」


紳士は心底可笑しそうに笑った。
それを眉間に皺を寄せ一瞥したオリオンはため息を吐いて言った。


「癇癪を起されてサロンをめちゃくちゃにされてみろ、夜会どころの話ではない。」


事実、あとの事は妻に任せて息子と二人で逃げるように屋敷からここまで来たのだ。
笑い話になど、よくもしてくれるものだ。
それを聞いた紳士は更に豪快に笑った。


「あっはっはっはっ!!最高じゃないか!流石魔法族王家の姫君だ!それぐらい元気な方が良い!!」
「人事だと思って勝手を言うな。」
「まぁ、人事だからな。なんならうちの息子にどうだ?同い年だし似合いだと思うがな。」


天気を訪ねるかのように軽く問われた事に一瞬何のことか理解できなかったオリオンは我に返った。


「ふざけるな。大体お前の息子の事は聞いているぞ、とんだ悪童ではないか。」
「まぁ、それは否定しないが。親を前にして良くまぁ・・・。だが、頭も顔も決して悪くはないぞ。女性には紳士然としているしな。」


隣の紳士は持っていたグラスをウェーターに返し、また新しく注がれたグラスを取りながら至極可笑しそうに話す。
その視線の先には同じころの少女と楽しそうに踊る彼の息子の姿があった。
その少年は確かに自分の息子と娘と同じ年で、息子とも仲が良かった。


「そういう問題ではない。兎に角この事はもっと時間かける。急ぐつもりはない。」
「そうは言うが、そろそろ本腰入れて探さなければならんだろう。まさか売れ残りの者に姫君を任せるわけにはいくまい。」
「そんなつもりは全くない。それなりに調べてはいる。今日来たのもそれらを確認するためだ。」


魔法界貴族に生まれた女子の縁談が幼いうちに決まるのは珍しいことではない。
魔法族王家とも呼ばれるブラック家であれば尚更だ。
娘を目当てに群がる輩は何処にでもいる。
ついこの間などは、自分とそう歳の変らない者から娘を妻にと頂きたいと言われ、思わずその男の顔に一発、いや、三発?・・・・・・何発か入れた。
可愛い一人娘の相手はこの目でしかと見極めて決める。
それになんの咎があろうか。
娘もそれについては了承しており、「私はお父様が決めた相手ならどなたでも宜しいですわ」と歳に似合わない答えを出した。
その期待には応えねばなるまい。


「ちょっと待て、じゃあうちの息子もその対象だったのか?」
「あぁ、まぁそうだな。安心しろ、もう済んだ。」
「選抜に落ちたことをどう安心しろと言うんだ、全く。」


息子が対象外になったことに、大してショックを受けた様子もない彼に、オリオンは気付かれない程度に笑った。
こんな風に己になんの欲もなく近づいてくる彼に喜んでいる自分がいる。
それはブラック家当主として、決して褒められた事ではない。

『油断は敵を産み、己を滅ぼす糧となる』

幼い頃からブラック家を継ぐ者として刷り込まれた事は、そう簡単に抜けるものではない。
無論、抜くつもりもない。
家を、家族を守るため必要なものだ。
オリオンもそうやって息子に当たり前のように刷り込みを行ってきた。
そして息子も同じように次世代へと繋いでいくだろう。
己と家族を守るために。
大切な家族を守るためにオリオンは煌びやかな場に目を向けて、ある人物を探し始めた。





人物設定


オリオン・ブラック

聖28−族。
魔法族王家。
実質魔法界の最高権力者。
身内には甘い。物凄く甘い。
それ以外にはブリザードを感じさせる対応。
が、フリーモントには効かない。
でもまぁ良いか。
娘は目に入れても痛くないので入れてる。
子供たちにパパと呼んでほしいと密かに思っている。
愛妻家。


フリーモント・ポッター

名家だが、聖28−族には属していない。
直毛薬を発明して財を築いた(wiki参照)。
オリオンの事を友人と思っている訳でないが、こいつ可哀想だな、遊んでやろうぐらいに思ってる。
楽しい事が大好きさ。
息子は可愛い故に放置。(結果とんでもない悪童に)
愛妻家。
旅行好き。


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