誠凛TIMES
□台風ガール
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「あ、」
「お前…」
金髪の男は千晶を指差し、目を丸くした。どうやら覚えていたらしい。
そして彼は足元で尻尾を振り、『かまって、かまって』て言わんばかりにじゃれているコハルを撫でた。コハルを見る彼の瞳は優しさを含んでいた。
「コイツお前の?」
「あ、はい。本当にごめんなさい」
「いや、人なつっこいんだな」
「うん」
会いたかった人。しかしいざ本人を目の前にすると何を話せばいいのかが全く浮かんでこない。
流れる沈黙に困った千晶はとりあえずご機嫌なコハルのリードに手を伸ばした。
「ん?」
千晶の視界に入ってきたのはバスケットボール。男の物だろうか。
「ボールあなたの?」
「え、あぁ」
「バスケ、やるの?」
そう千晶が訊くと、一瞬男の顔が曇った。
「…やってたけど、やめた」
「…そうなんだ」
男の表情から何かまずいことを訊いてしまったような気がして、千晶は内心焦った。再び訪れる沈黙。
ぐるぐると回る頭の中から千晶はひとつの言葉を引っ張り出してきた。
「あ、あの!名前教えてもらえませんか!?」
勇気を振り絞ってやっと口にした言葉。必死すぎてつい声が大きくなってしまった。その声に男は一瞬たじろいだ。
「は…?あ、俺は日向順平」
「えっと、宜しくお願いします!」
戸惑いを隠せないまま名乗った日向に対し、勢いよくペコッと礼をして顔を上げた千晶は、
「行くよ!コハル!」
全力で石畳を駆けていった。
その姿、台風の如し。
「何なんだ、アイツ…」
その場にポカーンと佇む日向は遠ざかる背中を見つめながら呟いた。