短編
□雨の帰り道
1ページ/2ページ
「せっかく久しぶりに一緒に帰れんのに雨かよー」
ビニール傘を開けながら高尾は口を尖らせた。
「まぁ、梅雨だしねぇ」
赤い傘をくるくると回す琥珀。
まだ終わらない梅雨を高尾は少し恨めしく思いながら、歩き出した。
高尾がバスケで忙しく、帰りも遅くなるため、なかなか一緒に帰るという機会がなかった。そのため部活のオフが急に決定した昨日の昼休みから、高尾は2人でどこに寄り道しようかと考え、浮かれていた。ちなみにその浮かれっぷりを見ていた緑間は「気持ちが悪いのだよ」と大坪主将に漏らしていたらしい。
雨の中を横並びで歩く2人。高尾はどんよりと重たそうな灰色の雲で覆われた空を見て溜め息をついた。
「あ!!」
住宅街の一角で琥珀が急に声を上げ、その場でしゃがみこんだ。
「どしたの?」
「アマガエルだぁ!」
振り返った琥珀は眼をキラッキラさせ、満面の笑みで高尾を見上げた。
か、可愛い!
その笑顔にドキッとしつつ、高尾が屈んで覗きこむと、そこには黄緑色したアマガエルが1匹。雨に打たれて揺れる紫陽花の下で雨宿りをしているかの如く、じっとしていた。
「ふふ、可愛いなぁ」
「アマガエルって超久々に見たわ」
「私も」
琥珀は「じゃあね」と言って立ち上がった。
「行こっか、高尾くん」
「おう」
雨だし最悪って思ってたけど、琥珀と一緒にいられるなら天気なんて関係ねーや。
「高尾くん」
「ん?」
「雨も結構楽しいね」
「…つーか、琥珀と一緒なら、どこでも楽しいわ」
ニカッと笑う高尾。琥珀は少し頬を紅く染めて「私も、高尾くんと一緒なら…」と呟いた。
あー、やっぱ好きだわ。やばい。
翌日、高尾のノロケ話を延々と聞く羽目になった緑間が大坪主将に助けを求めることになるのであった。
‐END‐