短編
□Sleeping Beauty
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昼休み、返却期限間近の小説を携え、黒子テツヤは図書室のドアを開けた。
真っ先にカウンターへ向かい、小説の返却を済ませると、新たに借りるものを探しに図書室の奥へ進んでいった。
大きな本棚、沢山の本、そして静かさ、彼はこの空間を好んでおり、休み時間によく訪れていた。
特に奥の窓際に椅子が1脚置いてあるのだが、天気がいい日は窓から入るやわらかな光が心地よく、図書室に行けば、そこに腰掛け、ゆっくり借りた小説を読み進めるのが彼の通例となっていた。
いつも通り、その場に向かっていたのだが、椅子が見えたとき、黒子は足を止めた。
人が座っている。
椅子なのだから誰かが座っていても不思議ではないのだが、今までそんな場面に彼は遭遇したことがなかった。
椅子に座る先客はセーラ服の少女で、アンデルセン童話の本を1冊手にしたまま、眠っていた。
色白の肌。肩を少し過ぎるくらいまで伸ばされた漆黒の髪は、陽の光を浴び、さらにその艶のある黒色が強調されていた。
黒子はしばらく彼女から目が離せなかった。
「ん…」
少女の肩が揺れる。
その瞬間、なぜか黒子はその場を足早に立ち去ってしまった。
廊下に出て、一息つく。
―綺麗、なひとだった。
ついさっきの少女との遭遇は、まるで小説のワンシーンのように感じられた。
彼女の姿が頭から離れず、翌日の昼休みも少年は淡い期待を胸に秘め、図書室に足を運ぶ。今日も同じ場所にいるとは限らないのだが。
しかし、少女は今日も同じ椅子に座り、眠っていた。今日は恋愛小説を抱き締めていた。
それから昼休みに図書室を訪れるのが黒子の日課となった。そして、彼女はいつも同じ場所にいた。
―彼女のことを知りたい。
常に閉じられている眼は茶色だろうか、それとも髪と同じで漆黒だろうか。どんな声で話すのだろうか、笑うのだろうか。
まるで童話に出てくる眠り姫のような彼女に黒子はどんどん惹かれていく。
しかし、その反面、童話の王子のように彼女を目覚めさせることのできない自分に苛立ちを覚え始めてきた。