NO MUSIC NO LIFE
□飲みに来ないか
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あぁ、何でこんなことになったんだろう。
日向順平21歳。ただいまピンチです。
事の始まりは、彼女である神崎千晶と俺の住んでいるアパートで飲んでいたときに遡る。
近くのリカーショップで買い込んできたビールやらチューハイやらカクテルやらを飲みながら話していたのだが、些細なきっかけで口論となってしまったのだ。因みに、口論の原因は記憶に残っていない。
お互い酒も大分回っており、彼女も口が達者なほうであるため、言動はどんどんエスカレート。気がつけば彼女は目に涙をいっぱい溜めており、『順平のバカ!』と言い放って、そのままその場を出て行ってしまった。
俺は追いかけることもできず、7.5畳の部屋に空き缶と余ったビールたちとともにひとり取り残された。窓から入ってくる夏の夜風はひんやりとしていた。
「あー、マジでどうすっかなぁ…」
「そう言ってるんなら謝ればいいんじゃ…」
昼休み、大学の食堂でぼやく俺の向かいで伊月はカキ氷をシャリシャリ言わせながら、もっともな意見を言った。
あれから10日が経過しており、千晶とは会わない日々が続いている。
「正直、引き下がんのも、こう、男としてはさぁ」
「そんなこと言ってるうちに神崎さんがほかの男のところに行ったらどうするんだよ。彼女もてるんだろ?」
んー、と頭を抱える俺を見て、伊月がため息をつき、『ふたりとも素直じゃないなぁ』と呟いた。
カキ氷を口に運び続けていた伊月の手が急に止まった。…何だか嫌な予感がする。
「氷…、ハッ!氷はこーりごり!キタコレ」
「きてねーよ」
俺は伊月にチョップを喰らわせた。
授業も終わり、家に帰った俺は携帯電話とにらめっこをしていた。彼女に電話をかけるべきか、かけざるべきか…。
そう考えているうちに喉が渇いてきた。俺は飲み物を取りに冷蔵庫を開けた。冷蔵庫には千晶と飲んでいたときに余ったビールが数本入っていた。俺は1本取り出し、ぐっと流し込んだ。冷たいものが喉を通過していく。
「…ビールってこんな味だったっけ」
正直、美味くない。彼女と飲んでいたときはどんどん飲めたはずなのだが…。
ふと、彼女がいないと、この世にあるもの全部味気なく感じてしまうのではないかという気がした。俺はビールの缶を握りしめた。
「だぁぁ!もういい、折れてやらぁ!」
俺は着信履歴から彼女の番号を見つけ、発信ボタンを押した。
言うことはもう決まっている。
「この前はゴメン。あと、飲みに来ないか?」
ここで引き下がるのも男らしさってやつだろう?
まぁ、結局はあいつの思い通りなんだろうけれども。