短編

□ミルクティー:Side B
1ページ/2ページ

とうとう気づいたのだろう。

授業中に教室を出ていった彼女を見て、そう思った。

俺の幼馴染みの結城琥珀は恋をしている。本人の口から聞いたわけではないけれども、見ていれば分かる。

幼いころから、ずっと彼女を見てきたのだから…

相手は昨年同じクラスだったサッカー部員だ。彼女とは委員会も一緒であった。
彼と話している彼女の瞳は、今まで見たことがないくらいキラキラしていて、あぁ、あんな表情もするのだな、と複雑な気持ちになったこともあった。


しかし、その彼には他校に恋人がいるということを耳にはさんだ。丁度1週間前のことだ。

琥珀に伝えるかどうかも悩んだ。しかし、それは彼女を傷つけてしまうことにもなると考えると、俺の口から事実を伝えることはできなかった。


2時間目が終わり、休憩時間に入った。担任が3時間目の授業が自習になったことを伝えにきた。

俺は教室を出て、琥珀を捜すことにした。彼女の行きそうな場所にはいくつか見当がついている。体育館裏か屋上かだ。まず体育館裏を当たることにした。
途中、購買の前を通りがかった。ふと彼女がよくここでミルクティーを買っていたことを思い出し、同じ物を購入した。
少しでも彼女の心がほっとするようにと…。

体育館裏へ向かったが彼女はいなかったため、屋上を目指すこととなった。

歩きながら色々考えると、心がもやもやとしてきた。

琥珀がどこにいるのかも、琥珀が何が好きなのかも、俺は知っているのに、ずっと彼女を見てきたのに、なんで彼女の一番近くに俺はいないんだろう。幼馴染というポジションは居心地が良かった。でも、それだけでは足りなくなってきてきている気がする…。

欲が出てきたのかなぁ…。

屋上へ続く階段を半分ほど上ったところで、俺は踵を返し、教室へ一旦戻った。
俺は自分の机からペンケースを出し、その中からペンと付箋を取り出した。
そして、付箋に一筆したため、それをミルクティーのパッケージに貼り付けた。

少しくらい、俺の気持ち伝えてもいいよな?

教室を出て、屋上に向かう。
ただ階段を上ってるだけなのに鼓動が早くなるのを感じる。
深呼吸して、屋上の扉を開けた。

彼女は、一人で座り込んでいた。

「琥珀」

いつもどおりの声で彼女の名前を呼べた。

「次の数学、自習になったって」

彼女からの返答はなく、沈黙が流れるが、別にそれでよかった。ただ、彼女に会いたかっただけなのだから。

…しかし、どのタイミングでこの場を去ろうか。


そんなことが頭をよぎったと同時に、2時間目の始業のチャイムが鳴る。引くタイミングとしてはちょうどいいだろうと思い、俺はミルクティーをその場に置き、屋上を後にした。

屋上の扉を閉め、俺はその場でしゃがみこんだ。

「うわ、ドキドキしたぁ…」

2回深く呼吸したが、鼓動は早いままだった。


『琥珀が頑張ってるの俺はちゃんと知ってるよ』


彼女は扉の向こう側で今頃ミルクティーを手にとっているのだろうか。メッセージを読んでいるのだろうか。どんな表情をしているのだろうか。

俺は立ち上がり、階段を下りていく。

願わくは、この気持ちが少しでも届かんことを。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ