モノクロ世界(内容)

□9、重い言葉
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「…美代…」


医者や看護師たちに押さえつけられ、無理矢理ベッドへと戻された菜緒。
しばらくして落ち着いてきたようで、婦長だけを残してそれぞれ自分の持ち場へと帰って行った。


「…あなたが美代に怒鳴るなんてめずらしいわね」

「…お騒がせして、すみません…」


うつむいたままの菜緒に婦長はふぅっと息を吐き出すと菜緒をゆっくりと抱きしめた。


「あなたも美代も…エクソシストはみんなそうやって抱え込むのよね。言いたくないなら無理には聞かないわ。でもみんなあなたのことが好きなのよ?だから、無理だけはしちゃダメ。いいわね?」

「…はい」


ぎゅっと抱きしめてくれる婦長の腕の中はとても暖かくてつい抱きしめ返しそうになった自分にはっと気が付いて伸ばしそうになった腕をぐっと押しとどめた。



だめだ

ここで甘えたら

私は

帰れない

戻れなくなる



「…ありがとう、ございます。もう大丈夫ですから」



笑え

笑え



「…最近エクソシストの人数が任務に対して追いついていないらしいわ。あなたにもおそらく任務が回ってくるわ。だからそれまではゆっくり休みなさい。いいわね、あなたに今必要なのは休息よ。わかったわね?」

「は、はい」


最後の言葉を再度念を押すように言った婦長の背後に般若がいたのはきっと見間違いではない。


婦長が部屋から出て行って独りになっても寝つけなかった。
体は疲れていて今にも意識は飛んでしまいそうなのに頭だけはまるで別の生き物のように忙しく回転している。
いや、同じところをぐるぐるとまわっているだけ、と言った方が正しいかもしれない。

美代の言いたいことも分かる。
私だってずっとコミックやアニメを見てどれだけ悲しい思いをしたか。
何の理由でこっちの世界にやってきたかはわからないけど、私たちなら変えられる。
未来を知っている私たちなら変えることはできる。
でもここは現実。
傷を負へば痛みが伴うし、それが大きければ待っているのは“死”


考えろ、

考えるんだ菜緒

決めたじゃないか

あいつを

美代を





―ガチャ


「!?」


扉が開いた音で現実に戻された。
慌てて緯線を向けるとそこにはしっかりと団服に身を包んだ神田が立っていた。


「…起きてたのか、手間が省けたな」

「え?」


そう言うと神田は近くの椅子に腰かけた。
その手には神の束が握られている。
おそらくそれがここにやってきた理由なのだろうが、神田は椅子に腰かけたきり口を開かないどころかじっとこちらを見据えたままだ。


「…えっと…任務…足手纏いに、なった…よね…ごめん…あと、ここまで運んでくれてありがとう」


とうとう耐え切れずに何かを言わなくちゃならないと思ったら口から出てきたのは謝罪の言葉。
それを聞くと神田は手に持った紙の束を私の膝の上に投げてよこした。


「報告、書…?」

「書き込める部分は書き込んでおいた。あとはお前が書け。今書けるんならそのまま俺がコムイに渡しとく」


あぁそう言えば忘れてたな、とペラペラめくるとある項目の部分で手が止まった。


―殉職者:探索部隊 ゴズ
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