うみのおさなご(内容)

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次にやってきたのはかの可愛らしいトナカイの故郷であるドラム王国。
そっと手を首に回せば微かに感じる凹凸につい笑みがこぼれる。
モビーでサッチを抑える際についた傷は一晩経てばもうすでに塞がっていた。
後一晩もすれば完全に傷跡もなくなってしまうだろう。
便利ではあるが、どうも気味が悪いものだ。

さて、行きますか、と大きく息を吸って、ロードの扉をくぐれば、そこは一面の銀世界・・・なーんて甘いものじゃなかった。

「し、死ぬ。凍え死ぬ」

一歩足を踏み出した途端、ぼすっと足の半分までが雪に沈み、さらに猛吹雪で視界は最悪。
これはあかん。死ぬ。
一旦帰って冬支度を整えねば、と能力を発動させようとしたその時、後ろで何か動く気配を感じた。
ばっと後ろを向くと、木の陰からのぞく茶色いシルエット。
ばちっと合ってしまった視線に相手の体がびくっと震える。

茶色い毛皮に包まれ、ピンクの帽子をかぶった角の生えた生き物なんてコイツしかいない。
麦わら海賊団の船医、ヒトヒトの実を食べたトナカイ、トニートニー・チョッパー

そこからの私の行動は速かった。
足場が不安定な中、見事な脚力で一気にチョッパーとの距離を詰め、逃げようとする彼の体を抱き上げる。
ぎゃああああと悲鳴をあげながらもがきながら必死に人型になろうとしている彼も体をリンの能力に変化させてしまえば、ぐったりとしてしまった。

「な、なんだ・・・?体に力が入らねえ・・・?」

「いやあ、手荒な真似してごめんな。別にとって食おうってわけじゃないさ。お前、トニートニー・チョッパーだろ?ちょっと協力してほしいんだ」

どうして名前を、と最初は怪しんでいたチョッパーもあまりの寒さにぶるぶる震えている俺の体を見てかわいそうに思ったのか、家に案内してくれることになった。






「もとの場所に捨ててきな」

チョッパーに案内されて着いたのは巨大な木の形をした家。
まさに本で見たドクターくれはのお家ではありませんか感激。
家の前でチョッパーを地面におろし(あったかかったのでずっと抱えてました)家の中に入ると、そこには勢いよくビンの中身を煽るぴっちぴちのおばあさんがいました。
そしてチョッパーと俺の姿を確認した途端発されたこの一言。


「で、でも、こいつ俺の名前知ってたし、ドクトリーヌのことだって…」

「…お前、何者だい」

「そうだな、一言で言うなら…化け物?」

化け物、なんとなく思いついた言葉にしてはなかなか的を射ているじゃないか。
死にそうな傷もすぐに治り、なんなら死んでしまっても生き返るこの体。
その発言に興味を持ったのか、手に持っていた酒瓶を机に置くと、近くの椅子に腰かけた。

「で、その化け物があたしにいったい何の用だい」

「実は、あなたに協力していただきたいことがありまして…」

全部話すことはさすがに無理だし、前世(と言っていいのかは分からないが)で一度死んだこと、不死身の体になったこと、なんかはさすがに躊躇われた。
ちょっと不思議な力がつけること、今後起きるであろうあることに対して備えたいこと、それに対して医者であるあなたの協力が必要だということ。
最初はまったく信じなかった彼女も、いくつか力を使って見せれば、ほぅ、と息をついた。
まあ、それ以上にチョッパーの目の輝きはすごかったが。

「信じられないような話だが、こんな海だ。嘘だとは断定できないね」

きゅぽんっ、と音を立てて酒瓶から離れた口元がにやりと弧を描いた。

「ただし、協力に見合うだけの報酬はもらうよ」

まあ予想はしていたが、なんせ一文無しの身だ。
彼女の望む報酬を用意するのは時間がかかるかもしれない。
それを告げた途端、彼女の目がギラリと光った。

「金がないってんだなら…体で払ってもうしかないね」

「え」
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