うみのおさなご(内容)
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「・・・、んが・・・あぢ・・・」
目が覚めると私は砂浜に倒れていた。
いや、正確に言えば打ち上げられていたとでも言うのだろうか。
じりじりと太陽が照りつける中、波打ち際に倒れていた体は海藻やごみに囲まれていた。
汗と海水と砂でぐちゃぐちゃな身体に目をやりながら体を起こし、必死に記憶をたどる。
「(・・・なんで生きてんだ?)」
最後の記憶は妖しく笑うあいつの顔と、まるで氷水の中に飛び込んだように一気に冷める体。
それを感じるのは2回目だったはずなのに。
立ち上がろうとするとふらつく体、関節は凝り固まってどこを動かしてもばきばきと音が鳴る。
まるで久々に動かしたようなその感覚にどこか笑えてきた。
また、死ななかった。
「(別に死にたいわけじゃないけれど)」
というかここはどこなのだろう。
まだあの世界?それともまた別の世界?
「(何はともあれ、情報が欲しい)」
塩のせいでぱさぱさな髪の毛をかきながら、ぐちゃぐちゃな頭を整理するために足を進めた。
浜辺から少し歩くと街が見えてきた。
進むにつれて人は増え、それに比例するかのようにがらの悪そうな男達の割合が増える。
それもそのはず。
どうやらそこは大きな港があるらしく、モビーほどではないもののそれなりの大きさの船がずらりと並んでいた。
(周りからの視線が痛い)
その様子は見慣れた世界のもので、よかったと息をつくと同時に思い浮かぶはリンの顔。
「(しかし、いくらなんでもこの恰好じゃ・・・お?)」
「ありがとうございましたー!」
にこにこと笑顔の店員に見送られ、店を後にする。
服は一式そろえたし、髪だって洗ってもらった。
これで、誰も私だとは分かるまい。
今から1時間ほど前。
ぱたぱたと塩や砂をはたいていた私の視界に入ったのは一人の女性に詰め寄る男×2
女性がとても迷惑そうな顔をしていたので、女性の扱い方を体に教え込んだ後、ちょっとだけお小遣いを恵んでいただきました。
で、その時、男たちが私が氷の龍使いだと気が付いた様子だったので、丁寧に記憶を消させてもらい、今は男になっています。
今回はイワンコフの「ホルホルの実」の能力を使用。
指を体に刺すのは結構痛かったです。
それから、もう一つ。
服に着替えているときに気が付いたソレ。
右肩にいつのまに入れたのか、立派なジョリーロジャーが彫られていた。
大きなひげをたくわえたそれはまさしくあの海賊団のもの、そしてそれを囲むようにあしらわれた青い波はリンを表しているのだろうか。
「(まさしく私が言ったそれそのままだ)」
あの初陣で褒美をくれるという親父の言葉に、私は“家族の証”をねだった。
覚悟、というわけではないけれど、その誇りを背負えば自分の気持ちをはっきりとできるような気がしたから。
うん、迷うことなんて一つもないじゃないか。
私がやるべきことはただひとつ。
残ったお金をすべて使って紙とペンを購入し、向かったのはどこにでもあるような宿。
とりあえず数日部屋を借りると備え付けられていた机に勝ってきた洋紙を広げる。
そしてそれから丸一日かけて今後の流れについて自分が知っていることをすべてその洋紙に書き写した。
サッチの代わりに死亡扱いとなったのは自分自身。
その後の大まかなストーリーから登場人物一人ひとりまで、知っていることは全て。
伊達に読み込んでいるわけじゃない。
頂上決戦に関しては一コマ一コマ食い入るようにして読んだ。
そしてさらにもう一日かけてこれからの計画を練る。
この体を使ってどこまで介入できるかわからない。
でも、それでも、私は止まることはできない。
あらゆる出来事に対処できるよう、計画は幾通りも練り上げる。
彼らはキャラクターじゃない、生きている人間だ、それぞれが考えを持ち行動をする。
だが、最終的にたどり着く結果はただ一つ。
3日後、出来上がった本とも呼べそうな分厚い冊子。
1ページ目をめくれば最初の目的地の名前が記されている。
「さて、行きますか」