うみのおさなご(内容)

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そしてその日の夜、食堂でリンと夕食をとっていた晴は航海士のデオから明日には島に着くことを告げられる。
どうりでみんながばたばたとあわただしそうに動いているわけだ。




「あの島は治安は悪くはねぇが、なんせ親父の島じゃねぇからな。上陸するときは気を付けたほうがいい」


「ありがとうございます」




礼を言うとデオは仕事があるからと自分の持ち場へと戻って行った。
そして再び食事を再開しながらふと辺りに視線を向けると今まで気が付かなかったが、確かにあまりいい感情を持っていないと思われる視線をいくつか感じた。
確かに、家族でもなく仕事もしない人間が自分たちの船に乗っていたらあまりいい気分はしないだろう。
となりでもぐもぐと食事を勧めるリンを見ながら晴は考えた。
正直あの事件のことなんて忘れかけていた。
いつやってくるかもわからないしね。
そろそろ、潮時か。




つきんっ、とまた胸が痛んだ。





その日の夜、晴はリンが眠ったのを確認すると船長室へ足を向けた。




「こんばんは、船長さん。夜分遅くに申し訳ありません。少しよろしいですか」


「あぁ、構わねェさ」




そう言うと白ひげは周りで何やら検査をしていたナースたちを下がらせ、船長室に残ったのは二人となった。



「明日には近くの島へと上陸すると聞きました。その島で私たちは船を降りようと思います」



白ひげの酒を煽る手がとまり、すっと晴に視線を向けた。



「それは急な話だなぁ…なんか予定でもあんのか」


「いえ、そういうわけではありませんが…」




昼間のイゾウの話を聞いて晴は考えた。
結果、早めにこの船を降りることにしたのだ。
リンだってみんなと仲良くなればなるほど離れがたくなるし、なにより彼女のためならしばらくグランドラインを離れようとも考えていた。




「(本当は私が彼らから離れていたいだけなのだけど・・・)」




リンのためと言い訳をし、彼らから離れて自分自身を守ろうとしていることなんてわかっている。
それでも、これ以上彼らのそばにいることは辛かった。




「しばらくグランドラインを離れようかと、それに、私たちがこの船に乗っていてもあなた方に利益を与えることはできません」




白ひげならいまこの船に漂っている空気を知らないわけじゃないだろう。
それでも私たちを乗せていてくれた彼らにはとても感謝しているし、だからこそそんなことでこの船の輪を取り乱したくなかった。
なんとなくそんな晴の気持ちをくみ取った白ひげは大きくため息を吐いた。




「確かに、お前の言うことは一理ある・・・」




そこで白ひげはいったん言葉を切ると、何かを考えるように黙り込んだ。




「・・・まさかとは思うが、息子たちが」


「白ひげ」




そしてその口から吐き出されたいつもの彼の声とは思えないくらい小さい覇気のない言葉を晴は途中で遮った。




「それは違います。私が、自分で、決めたことです」




確かにイゾウに言われた言葉は大いに関係しているが、あの言葉は私たちをこの船から追い出すための言葉ではない。
私に気づかせるための言葉だった。
それを踏まえて決めたのは私だ。




「いつものあなたらしくもない。家族を疑うなんて」




そう、彼は家族だと信じた者を疑うことはない。
だから、ティーチの心を見抜けなかったし、スクアードへの海軍の策略だって気が付かなかった。
それは彼の強みであり、弱みだった。




「・・・いや、そうだったな。俺の息子だァ愛すべき俺の息子たちさ」



ぐららららと豪快に笑う彼に晴も笑みを浮かべた。



「すまねぇな。どうもリンのことを考えると卑屈になっちまう」




そんな彼の瞳は娘に対する愛しさとどこか悲しさを持っていた。




「リサは強い女だった。だから俺には、いやこれは言い訳にしかなりはしねぇが、あいつの親でありながらあいつがいったいどれほどのものを背負ってるかなんてわかりもしなかった・・・」




すっと閉じられた白ひげの瞳。
それは本当に自分の子供を思う親で、きっと彼女を助けられなかったことを一番悔やんでいるのは彼自身なのだろう。
あの時船から降ろさなければ・・・と彼の口が動いた気がした。




「・・・リンのことをよろしく頼む」


「はい、この命に代えてでも」




自分は一度死んで元の世界から弾かれたのだ。
そんな自分にもう一度生が与えられ、手に余るほどの能力を手に入れた。
彼女のために2度目の人生を捧げても悔いはない。





「(私は彼女の剣となり盾となろう)」




彼女のために生き、彼女のために死ぬ。
前世に比べたらなんとも有意義な人生の使い方じゃないか。
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