うみのおさなご(内容)
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一方、海の上を水枷で走る晴と少女。
もうすでに島の影は見えず、追手もやってくる様子はない。
「(逃げれた、のか)」
だが、ほっと息をついたのもつかの間。
晴は今のこの状況が非常に危ないことに気が付いた。
まず、ここはグランドライン。
ログポースもエターナルポースも持っていない
あたりに島影が見える様子もない
そして重たくなっていく足
「(やばいな)」
下手したらこのまま海へドボンなんてこともあり得るというわけだ。
「・・・そう言えば、自己紹介まだだったね」
島を出てから黙ったままの少女になんとなく重たい空気を察した晴は、その沈黙に耐えきれず口を開いた。
「あ、えっと、リンです。5歳、です。えーっとそれから・・・」
びくっと肩を震わせてあわてて自己紹介を始めた少女、リンの言葉を晴は笑いながら制止した。
「そんな焦らなくてもいいよ。私は晴。よろしく」
「は、はい!えっと、晴おにいちゃん?」
「(か、かわいい!!けど違う!!)・・・うん、それでいいよ」
「おにいちゃん!!(笑顔」
「・・・うん」
まぁ、これから旅をする分には男の方が都合がいいかもしれないし、もともと中性っぽい自分が悪いってのはわかってるけど・・・うん。
張りつめた空気が少しだけほどけ、二人の間に笑顔が生まれた。
それから海の上を撥ねながらお互いのことを話し始める。
そこでわかったことは、海軍に追われて島を転々としてきたこと。
そして、自分が“海の子”と呼ばれていることは母親から教えられていて、そのことは二人だけの秘密ということ。
ただ、“海の子”というものを詳しくは知らないらしい。
「ママがね、アクマノミを食べた人には近づいちゃダメだって言ってた」
「そうなんだ。あれ、お母さんは?」
「ママ、は・・・」
その瞬間、黙り込んでしまったリンに晴はしまったと顔をゆがめた。
今は聞くべきではなかったと、あわてて謝ろうとしたとき、リンが震えながら口を開いた。
「前の島ではぐれちゃったの・・・でもねっ、ちゃんと一人でもできたから!だ、大丈夫だったの!」
そう言いはしたが、誰がどう見てもそれが強がりだということは明らかだった。
泥まみれの体や顔、こんな小さい子が母親とはぐれて一人で生き延びることなど、たやすいことではない。
それでもこの少女は生きようとしている。
きっと夜もろくに眠れなかっただろう、いつ見つかるかもしれないという恐怖の中で神経をとがらせながら暮らしていたこの少女を見て、晴は決心した。
「・・・がんばったな・・・でも、大丈夫。私がこれからそばにいるよ」
海の上に立ち止まり、不思議そうに顔をあげた少女にそう告げた。
せっかく手に入れたこの力。
普通に生活する中で廃れさせてしまうくらいなら、この子のために使いたい。
むしろ、そのために私はここにいるのだと思った。
「嫌な奴が来たら私が追い払ってやる。もう一人で抱え込むな。私を頼ればいい」
「ほ、ほんとに?一緒にいてくれるの・・・?」
「あぁ、約束する。だから、もう泣いていいんだよ。我慢しなくてもいいんだよ」
そう言ってぎゅっと抱きしめたとたん、一瞬大きく目を見開いたかと思うと、ぐしゃりと顔を歪め声をあげて泣き始めた。
「ほんとはっ・・・こわ、かっだのッ・・・ママ、いないしっ・・・よるはっ、ぐらぐでッ」
「あぁ」
「おながもっ、すいててッ・・・でも、街には行けなくてッ」
「あぁ」
「ママだってッ、ママ・・・ママああああああああああッ!!!」
盛大に鳴き声を上げる彼女をよしよしとあやしながら、ゆっくりと足を進める。