学園アリス

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一人で泣いたあの日から、あたしは数日間風邪と称して学校を休んでいた。

と言うのも、すべて那月――あたしの主治医からの命令なんだけどね。


ここ最近あたしの体力は著しく低下してきた、それに伴って軽い吐血感。




それは、あたしのアリスのタイプが関わっている。






――――とまあ、それはもう過ぎたからいいんだけどね。



今の問題は……そう、






「もうすぐバレンタインだねー!」

「うんうんっ、今年はどうしようかなあ!」






女の子が恋に浮かれ、男の子がドキドキする恋イベント…即ちバレンタインデー。



それが、あたしの一番の問題だった。



あたしは久々に学校に来て、みんなにことごとく心配されて、大丈夫と答えて、



だが次の瞬間、話はバレンタインデーに向いてしまった。







「えへー、実はうちチョコ作るのもバレンタイン参加するのも初めて〜♡」







と言う蜜柑にあたしは心底呆れた視線を贈る。

意気込む蜜柑は“アリス学園”のバレンタインを知り、不思議チョコを生み出すと女子共を巻き込んで張り切っている。




あたしはそれに気づかれない程度にため息を吐いて教室を後にした。












――――



『ちょ、来ないでよーっ!』

「待てやゴルァァアア!!!」

「てめチョコ受け取れ可愛いなチクショウ!」

「ぼぼぼ、僕のチョコを……!」






はいおはようございます。



えー、朝から野太い声のオンパレードです。


…若干優等生っぽい声も聞こえてくるけど。


そんなことには構わず、あたしは全力疾走で彼らから逃げて行った。






『っ、ハッ…』






声から吐息が漏れる。そうして今まで下を向いていた顔を上にあげるとそこには、






『こうとうぶ……!』







そう、高等部校舎が。


あたしは最後の力を振り絞って中へと無事入れた。







『ハッ、ハアッ……つか、れ、た…』






ズルズルと壁を背に座り込む。
膝のところに額を乗せ、しばらくその体制で息が整うのを待つ。



すると、声が降ってきた。






「――――あれ、愛美?」







それは、いつしか聞いた声だった。







『…………広樹…』







そう、穴騒動の時に再会したクソ生意気なあたしの後輩。

木津 広樹だった。






「まーた追いかけられてんの?」

『っ、ん……』

「プーっクスクス!」

『腹立つそれ!やめてよ!』

「悪い悪い、…と、ん」







怒ったあたしに軽く謝り、次にポケットを探ったかと思ったらおもむろにあたしに何かを渡してきた。


それをあたしは素直に受け取る。







『………チョコ…!』

「おう、安心しろ!俺のは普通のトリュフだかんな」

『広樹のを疑うわけないじゃん!
うわあ、うわあっ!また食べれるなんて思わなかった!



ありがとう!広樹!』







昔、一度食べたことのある彼のチョコレート。

それはすごく感動するくらい美味しかったのを覚えている。


だからこそ今、あたしの目はキラキラ輝いているだろう。






『あ…あたし、チョコない…』

「プッ…いらねえっての。前も貰ってねえし、そもそも愛美にとってバレンタインって貰うもんだろ!」

『む、何それ。あたしだって作るときあるもん!』

「はいはい、つーかいつまでもこんなとこいると見つかっちまう「あぁぁあ!!!みんな!愛美先輩いたわよ!」

「ほんとですか!?」

「キャァァア!本当だぁ!」

「俺のチョコ受け取って下さーい!」

「いえ、あたしのを!」






ドワァ!となだれ込むようにあたしに倒れてくるみんな。


それぞれ各々の手にはチョコレートが握られている。







『や、ちょっとみんな落ちつい…』
《ターゲットNo.0 雪峪 愛美 高等部正門付近 只今狙い時》






あたしの言葉を遮って聞こえてきたのはアナウンス。

その声は、あたしの良く知っている人物―――心読みくんだった。







「チッ…何よ今のアナウンス!」

「ちょっとぉ、みんなで愛美先輩守るよぉ!」

「お前とお前はそっち、俺が向こうでくい止める!」

「「「「了解!!!」」」」







みんなの見事な連携に思わず拍手してしまう。

それが聞こえたのかみんな照れくさそうにこっちを向いて顔を赤らめていた。






――――そして、みんなのお陰であたしは変なチョコを口にすることなく、







「愛美先輩っ!邪魔者はやっつけました!」

「俺らの愛の籠もったチョコレート、」

「受け取って下さい!」







恐らく数十人はいるであろう手には綺麗にラッピングされたチョコレート。



あたしはそれに感動して固まっていると、何を勘違いしたのか






「っ安心してください!」

「俺ら純粋に愛美に食べて欲しくて…!」

「そぉだよぉ!あたしたちぃ、愛美先輩のために昨日一晩中寝ずにチョコ作ったんだよぉ!」






最後のその言葉にあたしはとうとう我慢出来ず、目の前にいる後輩たちを自分の腕に入るだけ掻き抱いた。


それに目を丸くするみんな。


だけどそれに構うことなく、あたしは口を開いた。






『……もう、




みんな大好き!』







そしてありがとう、と一人ずつ言いながらすべてのチョコを戴いた。







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