学園アリス

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あの花姫殿での騒動から数日、やっとあたし達に平穏が戻ってきました。







あの日から蛍は蜜柑に引っ付かれてもそれを引き剥がすことなんてせず、されるがままに。



……まあ、臨界点が突破されるまでいったらいつものように殴っていたけど。




そんな光景をしばし見つめ、あたしは一人静かに教室を出た。


















――――葵ちゃんを見送ったあの日、あたしは誰に言うわけでもなくあの場を去った。


そうして行った所は、言わずもがな病院だ。



まだ完治していない身体であたしは全力で走ったため、どうしようもない疲労感、それから喉元から込み上げてくる血に急いでそこを目指した。




出るときと同じように窓から病室に入ると、そこには腕を組みまるであたしが窓から来ると分かっていたかのように仁王立ちで立っていた那月と、




思い切り不機嫌で真っ黒な気配を出してこちらを無言で見つめてくる秀ちゃんと昴ちゃんがいた。







『……あはは…皆さんお揃いで、』







あたしは思わず苦笑を漏らす。

出来ることなら一刻も早くここから立ち去りたい。


だけどもう無理な事くらいいい加減分かる。

自分の身体のことだ、分からない方がおかしい。






「……俺が言わなくても分かってんだろーな」

『……分かってる、』

「…もう、いい」

「愛美先輩、お願いです…!」

「僕らの前では、もう我慢しないで下さい……!」






那月がポツリと呟くと、それに続くように懇願してくる秀ちゃんと昴ちゃん。


二人の泣きそうな声に、あたしは無意識に震える瞳で彼らを見つめた。






「…お前まで…愛美まで居なくなったらこいつらどーすんだよ」

『……それ、ズルいんだけど』

「ズルいだろーが何だろーがなあ、」






そこで言葉を切った那月は、いつの間にか俯けていた頭をグッと上げ、






「愛美が生きる道があんなら、例えそれが何であっても使わねえ訳ねえんだよ!!」

『………え、』

「マジでいい加減にしやがれ!何年お前の担当医してると思ってんだ!?

















お前が、愛美が居なくなったら俺らは悲しいから、辛ぇから、あんな想い二度としたくねえから、もう誰一人失いたくねえから!



だから俺らは必死にお前に怒るんだろ!?


俺は正直言ってこんな所に居たくねえ、さっさとこんな所から出て行きてえ!



でもな、」







グッと息を飲んだ那月、そんな彼には珍しい涙が頬を濡らしている。


だけどあたしも、涙腺が可笑しくなったと思えるくらい涙が止まらない。



だって、初めてだったから。



那月の本当の想いを知るのは。







「ここに大事な奴が出来たから、死なせたくねえ奴がいるから!











何に置いても救いてえ奴がいるから!だから俺はここにいるんだよ!」







最後のその言葉に、あたしはとうとう膝から崩れ落ちた。


まさに“大泣き”って言葉がピッタリだと思う。


知らず知らずに嗚咽は出るし、鼻も詰まって上手く息が出来ない。







『っ、う、あ……ッッ、な、き…!』

「いつもいつも愛美は誰かの為に傷ついて、我慢して、泣くのを耐えて、


人には“頼れ”とか“泣いていい”とか言っときながら自分はどうなんだよ!」

『、あ、あぁ…!』

「大人ぶってんじゃねえよ!まだ餓鬼だろーが!



泣きてえ時は泣け!ドアホが!」







グシャグシャ、と頭をかき混ぜてきた。

その温もりに余計涙は止まらなくて、



呼吸混じりに嗚咽が漏れて、







『せん、せ…っ、』

「…!」

『ごめ、なさ…ズッ、ゴホッゴホッ!


あり、がと…ぉ!』







涙でグチャグチャな顔を上げてそう言うと、那月は一瞬驚いた顔をしたがすぐに目元を緩ませ、







「……バーカ、俺を誰だと思ってんだ」







その声はやっぱりどこか震えていて、







「お前の担当医様だかんな、」








だけど、震えていながらもそうやってふざける貴方は、やっぱりすごい。
















『――――那月が、あたしの先生で良かった…!』
















そうして、あたしはまだ涙を流していながらも、



少しずつ眠気と共に意識を手放した。














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