D.Gray-man
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「――――懐かしいね。
まだ数回しか来たことねェのにここに来るといつも、なぜかそう思う。
生まれた場所でもねェのにな」
「ああ、それは己にもあるぞ」
「こんな陰気臭ェとこ趣味じゃねェんだけどよ」
「ヒヒッ!!」
ノアの方舟の中に入り、各々思ったことを口に出す。
無言で歩いている僕も、初めて入ったにも関わらずどこか懐かしいと感じている。
これこそがノアの証なのだと言うように――――…。
「キミ達の内のノアの遺伝子が懐かしがってるんですヨ♡」
千年公がスッと出てくる。
自然に僕たちの視線も彼へと向く。
「これはノアが大洪水を逃れ、第2人類の祖先を造りだした場所。
キミ達のオリジナルの生まれ故郷なのですかラ♡
以前ーまえーにも話してあげたでショウ♡?」
オリジナルの生まれ故郷…。
その言葉が、僕の心に浸透していく。
ティキもその気持ちが分かってくれるのか、繋いでいた手をより強い力で握ってくれた。
「ここ、ノアの方舟こそが人類の故郷ーホームー、なのだトッ♡」
そう言い切った千年公は、相変わらず読めない顔をしていた。
そして何故か、僕の腰にあるイノセンス―――姫王がカタカタと揺れている。
『何で……』
「どうした、セシル?」
小さな声を聞き取ってくれたティキ。やはり近いからなのか。
『いや……姫王が揺れてるから…』
その言葉を聞いて、千年公はニタリ、と笑みを深くした。
「セシルのイノセンスは特殊ですからネェ♡
アナタのイノセンスは、本当に神に愛されたイノセンス。
だからこそ、我々も破壊衝動に陥らないし、セシルも咎落ちしない。
そのイノセンスは言わば、ハートおも凌ぐものなのデスヨ♡」
そして千年公に促され、僕は姫王を鞘から抜く。
すると、刀身が眩しいほど光り始めた。
『姫王が………』
「姫王も喜んでいるのデスヨ♡
この、故郷ーホームーへ帰って来れテ♡」
その言葉に呼応するが如く、強く光り続ける姫王に、僕はスルリと刀身を指の腹で撫でた。
――――
―――
――
「玩具達♡
我輩のコエが聴こえますカ?」
千年公の声に、アクマ達は次々と集まってくる。
……キモいくらいに。
「キッモー、これ全部日本地区オンリーのアクマ?」
「ヒヒ!こんなの呼んでどうすんのかね、社長は!ヒヒ!」
『ねーっ、でもホントキショイ…。
千年公眩しくないのかねぇ?』
デビとデロの言葉に同意する。
彼らはその後、ティキになにやら文句を言っていたが、ティキは聞く耳もたず。
いつもよりもボーッとしているティキに、何だか心配する。
そして、僕も。
やはりこれから“前の仲間”に会うからか、どことなく緊張している。
こんなの柄じゃない、と苦笑を漏らす。だが、緊張は消えることはない。
「今回はお手伝いしてあげますが、ジャスデビとスキンくんも、いつまでも元帥にやられてちゃダメですヨ。
ハート探しはまだまだこれからなんですかラ♡」
極めつけに一言、
「ちゃんと仕事なさイ♡」
と、鬼の形相でそう言った。
それに素直に謝る3人。哀れ…と思ったのは秘密だ。
「あ、セシルは良いんですヨ♡
むしろ危ないことは絶対させませんかラ♡」
『ぅえ!?っでもでも!千年公!!
僕だって何か役に立ちたい!』
千年公のいきなりのそれに驚く。
「ダメでス♡セシルは“ノアの姫”なのですヨ♡」
またもや出てきた新単語にくるくると回る頭。
だが、それも千年公にヨシヨシと頭を撫でられ、すぐに終わる羽目になった。
「……さて、我輩が居合わせたのも運命ですかねェ、クロス・マリアン…♡」
レロをスッと前方に突き出し、千年公は高らかに吠えた。
「行きなさいアクマたチ♡♡
全軍で元帥共を討テェ!!!!」
開幕ベルは、今、鳴り響いた
(僕のこんな姿を見たら彼らはどう思うだろう)(そう考える僕の姿は、実に滑稽だ)